竜×久美子編
「は〜・・・今日は危なかったな・・・」
放課後。久美子は3Dの教室がある校舎の屋上へと向かっていた。
結局、突然の隼人と竜の行動と、教室に残ったなんともいえない虚しい雰囲気にのまれ、
久美子の爆弾発言はうやむやになって終わった。
それはよかったことだし、二人のおかげでなんとか誤魔化せて感謝したいくらいだけれど。
二人ともあれから教室に戻ってこなかったのだ。
午後の授業はもちろん、放課後になっても姿がない。
帰ったのかと思ったけど、教室に鞄は置きっぱなしになっていたし。
土屋や武田が携帯もつながらねーっていってたし、心配顔の土屋たちをとりあえず帰して、
たまに屋上にいることがある小田切を探しに、屋上へと行くことにした。
屋上に出ると、一気に冷たい風が吹いて、寒さに身を縮めた。
「こ、こんな寒いところにずっといるわけねーよな・・・・・・。う〜っ寒っ」
一応ちゃんと見てまわっておこうと、屋上に置かれたベンチのそばまできた久美子は
辺りを見渡して、ベンチに座って少し待った後。
「だめだ・・・寒いっ・・・・・・・ほかのところに行こ・・・」
あまりの寒さに耐え切れなくて、校舎へと入るドアを開けた。
とにかく早く入りたかった久美子は、すばやくドアを開けて、すばやくドアを閉め、
そしてドア側を向いたまま、冷たい風があたらなくなったことにほっと息をつく。
その時、突然背後からスッと腕が伸びてきた。
その腕は久美子のすぐ横を通り越して、ドアに手をついた。
すぐ横にある腕と背後に感じる気配に、久美子は振り向こうとしたけれど。
「え・・・っ?!」
久美子が振り向くのより早く、ドアに手しかつけていなかった誰かの腕が、肘までついて。
それに押されるようにして久美子は振り向けるスペースをなくしてしてしまった。
それと同時にすぐ近くで低い声が聞こえてきた。
「寒いのか・・・?」
その声に、背後の人物が誰なのか気がついた。
「小田切っ?!」
驚いて、なんとか首だけを動かすと竜の顔が見えた。
「お前っ!どこにいたんだっ?!」
身体を向けようとしても、竜とドアに挟まれて少ししか動けない。
「お、おい・・・?な・・・なんだ・・・?」
少しでも動けば触れてしまいそうなほど近くにいる竜に、久美子はなんか妙な雰囲気を
感じて戸惑った。
この状況はいったい・・・・・・・?
とりあえずこの状況を抜け出そうと思った久美子は、挟まれたドアが向こう側に開くことを
思い出してドアノブに手をかけたのだが。
「開けたら寒いだろ」
その手を竜に掴まれてしまった。
耳元でささやく竜の声に、久美子の身体は思わず震える。
「ど、どうしたんだっ?な、なんか変だぞ、お前っ・・・えっ・・・わっ・・・ちょっとっ!?」
背を向けたまま問い掛ける久美子だったが、今度は突然肩を掴まれて向きを変えられ、
気づいた時には竜の姿は真正面にあった。
「お前、はぐらかしただろ」
久美子の瞳を覗きこむようにして見つける竜の瞳は、鋭かった。
その瞳に戸惑いながらも、久美子にはそれ以上に動揺を隠せないことがある。
腰に手を回されているのだ。
くびれと背中に触れる腕や、腰を掴む手の感触を感じて、落ち着かなかった。
「な、なんの・・・こと、だ・・・・・・・・・ひぁっ!?」
さらにぐいっと引き寄せられて、力の入った腕と手の感じに久美子は思わず上擦った
声をあげてしまった。
一気に顔が真っ赤に染まる。
恥ずかしさに久美子が手を口元に当てるけれど、その仕草に腰を掴む力はさらに強まった。
ぞくぞくっとした感覚に、身体の力が抜けていきそうになる。
「お、小田切っ・・・は、は、はなせっ・・・ばかっ・・・力いれんなっ」
「・・・腰弱いんだな・・・」
呟いた言葉は、微かだったけれど。
いつもの冷静な声音とは違う、どこか熱を持った声だった。
その声と言葉に、久美子の顔はさらに赤く染まって。
「うっ・・・うるさいっ・・・お前っ・・・いいかげんにっ・・・・・・・・」
「少し黙ってろ・・・」
そう言って、竜は久美子の眼鏡を取り上げると、そのまま唇を奪った。
「−−−−−んんっ?!」
久美子はあまりの出来事に思わず目を見開いたけれど、開いた唇から舌が入り込んでくると
その感触にぎゅっと目を瞑った。
(な、なにっ・・・?!)
頭も背中もドアに押さえつけられて、逃げようとした舌も絡めとられて。
さらに引き寄せられる腰に、久美子の身体から抵抗する力も奪われてしまった。
「んっ・・・・はっ・・・・あ・・・・・・・なにっ・・・すっ・・・・・んあっ!?」
それでも僅かに離れた竜を押し返そうとするけれど、すぐにまた奪われてしまう。
「・・・・・・っ・・・・ふっ・・・・・・・んんっ・・・!?」
腰をなで上げれば、ビクッと身体を震わせて。
(可愛すぎ・・・やべーな・・・とまんねー・・・)
キスはどんどん深くなっていった。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・ごほっ・・・・・・くるしっ・・・・」
やっとキスが終わったときは、久美子はぐったりと力を失って竜にしがみついていた。
大人しく腕に抱かれる久美子の姿に、竜はまたくちづけようとしたけれど。
はっとすぐさま気がついた久美子が、慌てて竜の顔を手で押し返した。
「・・・はぁ・・・お・・・お前はっ・・・・・・・私を殺す気かっ・・・・」
涙目で睨まれても全然恐くないのだが、これ以上やったら大人しく腕の中に収まっていそうに
ないだろうと思って、竜はキスするのはやめた。
「・・・いったいなんのつもりなんだっ・・・お前はっ・・・」
頬を撫でられて恥ずかしさに横を向こうとするけれど、ぐいっと竜に戻されてしまう。
「・・・・・・むかついて・・・可愛かったから。・・・つい・・・」
「なっ!?可愛いはともかくっ!なんで、むかついてるからってキスされなきゃなんねーんだっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あっ!おまえっ!私を窒息死させる気だったのかっ?!」
「・・・・・・・・・・・お前・・・やっぱ微妙っていうか・・・かなり変だな」
「なっ!?お前に言われたくないっ・・・ひぁっ!?」
ぐいっと、また竜の腕が久美子の腰を掴んで撫でた。
またまた変な声が出て、久美子はまた恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めた。
「ほんとに弱いな。腰・・・。」
いつものクールな表情とは違い、少し楽しそうな笑みを浮かべる竜に
久美子は恨めしそうな顔を浮かべた。
「離してほしいか?」
「あたりまえだっ!大体、いつまでひっついてんだっお前はっ!!」
離れようともがくけれど、腰を掴まれたままでは抜け出せそうにない。
「本当のこと言ったら、離してやるよ」
腰を掴む反対側の手で、顎を掴まれた。
無理やり視線を合わされた竜の顔は、とても真剣で。
久美子は戸惑った。
「酒屋の息子なんて嘘だろ。誰なんだよ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「まさか本当にお前の男ってわけじゃねーよな」
顎を掴む手に力が篭る。自然と視線も鋭くなった。
「彼氏とか・・・そんなんじゃあない・・・」
そういった久美子の表情から誤魔化しているわけじゃないことを感じ取ると、
竜は少しほっとして力を抜いた。
久美子はそんな竜の気持ちを知ってか知らずか、少し戸惑ったように視線をさまよわせた後
申し訳ないという顔で言った。
「あの、な、小田切・・・。テツのことっていうか・・・家のことは・・・言えないんだ」
「言えない?」
「・・・うん・・・。今は、言えないけど・・・。卒業した後なら・・・」
「教えてくれんのか?」
「うん。たぶん・・・教えられると思う・・・。」
なにか訳を含んだような久美子の言葉に、なんとなくじれったい気持ちはあるけれど。
竜は小さく溜息をついて、頷いた。
気になるのは確かだけれど。知らないことがむかつくけれど。
テツという人物が彼氏じゃないとわかったし。
キスもできたし。久美子の弱いとこもわかったし。
それに卒業した後でも会える。
久美子の言葉をそう解釈して、竜はとりあえず得た幸せに。
小さく笑った。
(・・・それにしても・・・・・・なんで私はキスされたんだ・・・?)
なんとなく理不尽なものを感じた久美子は、訝しげに首を傾げるのだった。
あとがき
隼クミから書いたので、あとがきはこちらにしました。
(隼クミまだの人は、注意したほうがいいの・・・かな?)
竜は耐える男で行こうと思っていたのに、なんかちょっと怪しげな子になっちゃった気が。
けれど、暴走して突っ走る隼クミ以上に、竜クミは甘いお話になってますかね。
同じ位に好きなのに、なぜいつも竜クミよりになっちゃうのかしら?
それにしてもこの分岐小説、やってることは同じですね・・・。
果たしてこれで分岐といえるのだろうか?
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