「悦ねぇってキスしたことあるんか?」


昼休み。


それは突然な質問だった。


頭も良くて、美人さんで皆よりどこか大人っぽい雰囲気のダッコにとっては、なんてことない気まぐれな質問。


けれど問いかけられた本人にしたら、意識が固まるには十分過ぎるくらいの衝撃だった。


「駄目よっダッコ!悦ねぇ、そーゆう話苦手なんやからっ」


ピシーンと固まってしまった悦子を、しっかり者なリーが慌てたように取り繕う。


けれどそうはいいながらも・・・視線は悦子へチラリチラリ。


ボートに明け暮れる日々を送りながらも、やっぱりそこは年頃な女の子。好奇心には勝てない様子。


「私も聞きたいわっ。どうなん、悦ねぇ」


イモッチも椅子から腰を浮かし、ヒメは大きな目をキラキラと輝かせてドキドキワクワクと悦子をみやっている。


「―――・・・ハッ!!そ、そんなこと聞いてどうするん〜っ」


4人の好奇な視線を受けて、固まっていた悦子は我に返った。


ぽうっと頬が赤く染まる。


興味津々な親友達の視線から少しでも逃れようと目を泳がせるけれど、彼女らはそんなに甘くなかった。


「あるんか?ないんか?」


ダッコの視線がじーーっと突き刺す。


「「「「どうなんっ!!」」」」


とうとうリーまでもが加わり、4人は悦子にずいっと詰め寄った。


(な、なんで私なん〜〜っ?!)


心の中。すでに悦子は半泣き状態。叫ばずにはいられない。


「・・・う〜あ〜・・・」


けれど口を吐いて出るのは、ごにょごにょとした気弱な声だけ。


目をキラキラと輝かせ。期待に満ち溢れる親友達の視線を前に、彼女ら思いの悦子が逃げられるはずもなく。


「・・・な・・・い・・・よ・・・ぉ・・・お?」


首を振りつつ、ふと、ある出来事が彼女の脳裏を過ぎっていった。


「・・・・・・・ん?」


浮かんだそれはどこかぼんやりとしていて。悦子は動揺も忘れ、一人遠い日に意識を飛ばすのであった。





それはひっそりと。胸の奥にあった淡い思い出。











遡ること数年前。まだ悦子が中学生だった、ある日のこと−−−。





「な、なんでぇ・・?なんで間違えとんの〜・・・!」


放課後。返された数学のプリントを両手で広げながら、悦子はガックリと肩を落としていた。


間違いだらけのプリント。こんなはずではなかったのに。


ショックに溜息を吐こうとした時、目の前を通りすぎる男子が一人。


「−−−ぶーっ!!」


むっと眉を寄せて、通り過ぎようとした男子・・・浩之を呼び止めた。


「ぶーってゆうなっ!!−−−なんじゃっ」


反射的に言い返しながらも浩之はちゃんと立ち止まる。


「あんた間違い教えたんか?!」


浩之の目の前に、悦子はバッとプリントを突き出した。


「なんでこんなに間違っとんの〜!再提出なんよ〜っどうゆうことぉっ」


自分で考えてもわからなかったから、浩之に電話して解いたのに。


「そんなんしらんっ!俺は間違ってなかったんやから、お前がちゃんと聞いてなかったんやろっ。人の所為にすなっ!!」


「え〜?聞いた通りやったよっ私っ・・・なんでぇなん?・・・もー・・・わからんっ・・・」


浩之に怒鳴り返され、悦子はさらに気落ちしてしまう。


事実、浩之は再提出じゃないし、口では言っていても浩之が嘘を教えるとは思っていないのだ。


怒ってると思ったらションボリして。浩之は毎度のことながら、呆れてしまう。


はぁ〜っと大きな溜息を吐いて、悦子はトボトボと歩き出した。


「おい!どこいくんじゃ!」


突き当たりを曲がっていく彼女の姿を目で追いながら、浩之は顔を顰めた。


けれど悦子は気落ちしすぎて、浩之の言葉が聞こえていない。


フラフラとした足どりで曲がっていくのを浩之が早足で追う。


曲がった先には階段があり、悦子はフラフラと階段を上っていった。


(・・・ったく・・・危なっかしいやっちゃなっ・・・)


踏み外すんじゃないかとイライラしてくる。


視線を鋭くさせて。


「気ぃつけてあるけっ」


思わず怒鳴ってしまった。


次の瞬間。


「なによっ・・・・・・・・・え・・・っ・・・!?」


投げやりに振り向いた悦子の足がずるっと階段を踏み外した。


がくっと足が一段落ちて、バランスを崩した身体は数段上った場所から浩之のいる階段下へと飛び降りるように落ちていく。





「−−−ヤバねぇっ!!」


浩之の緊迫した声が響き渡った。








叩きつけられる音がして。








少しの後。


「・・・いったぁ・・・・・・・・・?」


悦子は、気がついた。


突然の恐怖と衝撃に身体が重い。けれど、思ったよりも痛くなかった。


おまけに自分の下には、何やら暖かなぬくもり。


「・・・ってぇ・・・」


もう一つ上がる声。


浩之は悦子の下敷きになっていた。


未だ状況がわからず、ゆっくりと顔を上げる。


「なに・・・やっとんじゃ、ボケ・・・・・・・」


仰向けになっていた浩之もまた、首を動かし顔を上げる。


それは本当に、偶然の出来事。


痛みに顔を歪めた浩之は首を曲げ、顎を引いて自分の上に乗っている悦子を見ようとし・・・。


不思議そうに目を丸くした悦子は顎を持ち上げるようにして顔を上げる。


偶然の距離とタイミング。


「「−−−・・・ッッ!?」」


二人の唇が触れ合ったのは・・・ほんの一瞬のことだった。


「・・・・・・・・・・・・」


パチリ、パチリとお互いに瞬きしあって。


どちらが先に認識・・・意識をしたのかはわからないが。


かぁっと染まる二人の頬。


ババッと浩之は口元を腕で覆い。


ババッと悦子が浩之の上から素早く降りる。


「な、なんっ・・・い、いいいいま・・・・・・わ、わわ・・・・・・」


少し離れた場所にペタリと座り込んで、悦子は真っ赤な顔で肩を震わせた。


シドロモドロになって。混乱して。


「なんてことするんっ!!このアホブーーーーっ!!!」


ぶち切れた。


グワシッと浩之の胸元を引っつかみ、ガクガクと揺する。


大切な。大切なキスだというのに。全然モテなくて、恋人もいなくて。


そんなんでも、夢に描くぐらいの想いはあったのに。


こんなハプニングでその夢が崩れ落ちるなんて・・・ショック過ぎる。


一緒に登校したり。お弁当わけっこしたり。学校帰りに手繋ぎながら、クレープ食べたり。


淡い淡い、夢。それも未だ現実できずにいるのに。それ飛び越して、「これ」ってなにっ?!


きっと睨みつける目には涙が薄っすらと浮かんでいて、浩之は気まずそうに視線を逸らした。


赤く染まった顔を誤魔化して。なぜか物凄い速さで動いてる心臓も気づかぬふりをして。


浩之はふいっと顔を背けたまま、低く呟く。


「・・・ちょっと、触っただけやないか・・・こんなん・・・別になんでもないやろっ・・・」


「・・・・・・へ?」 なんでもないと言う浩之に、悦子の手から力が抜ける。


(今・・・なんて言うたん・・・?)


怒っていたことも忘れ、大きく瞳を見開いて、悦子は呆然と浩之を見つめた。


「こ・・・こんなんて・・・は、はじめて・・・なんよっ・・・?・・・大切や、ないん?」


恐る恐る・・・窺うように問いかける。


初めてのキスといえば。誰にとっても特別なもののはず・・・。


なんだろう。胸がざわついていた。


ある予感が浮かぶ。


「・・・べつに・・・俺は・・・初めてやない・・・」


俯いて。思いっきり視線を逸らしてボソリと呟いた言葉は、まさしく予感通り。


「・・・ほ、ほう・・・なん・・・?」


それは何故かとっても。衝撃的で、ショッキングな言葉だった。


ずっと一緒にいたはずの幼馴染が遠くに行ってしまったような。


どこかがぎゅうっと締め付けられるような。


寂しさと、戸惑いと、微かな痛み。


力が入らなくて。ペタリと床に座り込んで。


ただ・・・心が混乱して。なにがなんだかわからなくて。


悦子は、ぼんやりとした意識の中。自分でも意識できぬまま、浩之と同じ、何でもないと思うことに決めたのだった。











「・・・ぇ・・・・・・悦ねぇっ!!」


「−−−は、はぃえぇぇっ!!」


ぼんやりとした意識の中。思い出に意識を飛ばしていた悦子は、大きく身体を震わせて我に返った。


妙な声を上げて辺りを見渡せば、怪訝そうに心配そうに見つめてくる4人の顔。


「はぃえぇぇっ!て、なに?どうしたん、悦ねぇ」


イモッチが大げさに身を逸らして悦子の真似をしながら、覗き込んでくる。


「もしかしてまた貧血やない?」


心配そうなヒメの視線を受けて、悦子は慌てて両手を振った。


「ち、違うっちがうっ!大丈夫っ大丈夫よっ」


「ホンマ?顔、赤いよ?熱あるんと違う?」


続くリーの言葉に、さっと頬を両手で隠す。自分でも熱くなってるのがわかって余計に慌ててしまう。


「な、なんでもないんよっ・・・ホッホントっ・・・大丈夫っ」


頬を指で摘んだり。パタパタと扇いだり。


焦った笑みを浮かべる悦子をダッコの鋭い視線が狙い打つ。


「もしかして悦ねぇ・・・キスしたことあるんやないの?」


「−−−っ!?!?」


ズバリと突いてくる言葉に、悦子の心臓がどっきーんっと飛び上がった。


「「「・・・ええっ!?ほうなんっ!!!」」」


一斉に身を乗り出してくる彼女らに冷や汗が伝う。


腰を浮かせながら。ジリジリと椅子を後ろに退いて。


「ほ、ほうやったっ!!!」


悦子は勢いよく立ち上がった。


「「「な、なにっ?」」」


「私っ先生に呼ばれてたんよっ!!」


「え?−−−って、悦ねぇー?!」


あまりの勢いに身を乗り出していた四人が驚いている一瞬の隙に、悦子は教室を飛び出していった。











「・・・はあ・・・・・・はあー・・・・・・」


廊下の隅で、悦子は深い溜息を吐く。


大して走ってもいないのに。胸がバックンバックンして息苦しい。


(・・・ごめん・・・皆・・・)


壁に肩を預けながら、嘘を吐いて逃げるように出てきてしまったことに謝る。


4人を思い描いても。心の奥に浮かぶ思い出は消えなくて。


「な、なんで・・・あんなん思いだすんよ・・・」


なんでもない。あんなの。


(ちょっと触っただけやないの。全然っ覚えとらんしっ!事故よ事故ッ!)


「そうよっ!!」


「なにがじゃ。」


気を取り直すように意気込んだ瞬間、聞こえてきた声に顔をあげれば。


今一番顔を合わせたくない男の姿がそこにはあった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


思わず固まってしまう。


「おい。どうしたんじゃ、ボケッとしおって」


怪訝そうに眉を寄せて、けれどどこか心配そうな目をして悦子の顔を覗き込む。


なんだかとっても恥ずかしくなって。


悦子はあからさまに顔を逸らしてしまった。


ピクリと眉を上げた浩之には気付かぬまま、向けた視線の先にタイミングよく映る福田先生の姿。


「−−−福田先生っ!!」


悦子は浩之の脇をスルリとすり抜け、浩之と言葉を交わすことなく先生のもとへと駆け出す。


「福田先生っその本図書室に運ぶんですよねっ!私、運びますけんっ!!」


先生が持っている大きなかごの中に沢山の本が入っているのを見つけて、悦子は咄嗟に手伝いを申し出た。


「いや〜助かるの〜。ほいじゃあ、頼んでええやろか?」


「はいっ!任せて下さいっ」


胸を張って元気よく返事をしながらも、その笑顔はぎこちない。


背中に鋭い視線が突き刺さってる気がして・・・。


それでも今更、声をかけることなどできるはずもなく。


悦子は福田先生から受け取ったかごを手に、そそくさと図書室へと向かってしまった。





「・・・なんじゃ、あいつ・・・」


思いっきり無視されてしまった浩之は、逃げるように去っていく背中を睨みつけた。


苛立つ気持ちを言葉に乗せて吐き出せば、余計に腹がたってくる。


イライラして。胸の奥がギリッと軋むような感覚に。


浩之はもどかしそうに俯いて、視線を彷徨わせた。


けれどやっぱり苛立ちは募るばかりで。


いつかの頃を思い出して。あんなのは、もうごめんだと。


浩之は固く拳を握ると、悦子の後を追った。








「また反抗期か、お前は」


静まり返った図書室。本棚に挟まれた狭い通路の奥で、浩之の苛立ちを含んだ声が微かに響いた。


知らんのだ。こいつは。まったくわかってない。


無視されることがどんなにムカツクことなのか。


わからせてやろうと。こっちから無視してやろうと思っても、視線が勝手にそっちを向いて。


声が勝手に口から出てしまう。


「なんじゃいったい。」


本棚に手を掛けて、じっと悦子を睨みつける。


「・・・・・・・・・・・・」


狭い通路に二人だけの状態でも、悦子は無視を決め込んだ。


といっても、さっきから本を棚に戻す手は小刻みに震えていて。チラチラと横目で浩之の様子を恐る恐る窺っている。


けれど視線が一瞬でも合えば、すぐさま顔を背けてしまう。


別にブーなんて恐くない。恐くないけど。


まずいな〜と思いつつも。なんとなくタイミングを逃してるというか、掴めないというか。


一声さえも出ない。


ただただ本を片付けることだけを考えようとするけれど、かごの中にはもう本は残っていなかった。


となれば・・・。と、一歩前に踏み出そうとして、ギクリとした。


(・・・ど、どうしよ・・・)


背後は壁。両脇は本棚。前方には、険しい顔の浩之。


まさにピンチ。


でも道はただ一つ。


悦子は意を決したように大きく息を吸って、かごを持つ手に力を込める。


顔を上げて、ギンッと浩之に視線を向けた。


浩之に負けじと目を吊り上げて睨み返す。


ずん・・・っと一歩踏み出そうとして、悦子は思わず立ち止まってしまった。


(・・・・・・?)


一瞬だけ。ほんの少しだけ、浩之の顔がほっと安心したような、気がして・・・。


意気込んでいたはずの気持ちが、つられるように抜けていく気がした。


ストンと肩の力が抜けて。張り詰めていた空気が流れる。それでも居心地の悪さは変らなくて。


「・・・な・・・なによ・・・?」


思わず声を漏らしてしまえば、浩之は眉を寄せた。


「・・・それはこっちの台詞じゃ。ボケっ・・・」


それでも出された声と表情は、どこか緩んでいて。悦子の心もまた、ほっと息を吐いた。


改めて浩之に視線を向ければ、脳裏に浮かぶあの日の思い出。


恥ずかしさがこみ上げてきて、悦子は咄嗟に自分の身長よりも高い位置にある本に手を伸ばしてしまった。


「こ、こんなの・・・読む人おるんかねっ・・・?」


丁度目に付いたのは、他のより少し大きめの本。つま先立って、古ぼけた背表紙を指に挟む。


「・・・あれ?・・・ちょっ・・・詰めすぎやないの?これ・・・?」


掴んだものの、なかなか抜けない。エイっエイっ!と無理に引っ張り出そうとして。


「おい、止めとけてっ・・・―――っ!?」


呆れたように見ていた浩之が声をかけるのと同時に、本が引っ張り出される。


けれどその本に続くように両側の本までもが動いているのに気がついて、浩之は咄嗟に動いていた。


「―――ヤバねぇっ!!」


「―――・・・・・えっ・・・?!」


振り向こうとした瞬間。悦子の目の前に影ができる。


覆い被さってくる気配に思わずしゃがみ込めば、


――――ドサドサっ・・・と大きく鈍い音が響き渡った。


「・・・っ・・・・・・」


パチリと目をあけて、悦子は呆然としてしまった。


膝を折ってしゃがみこんでいる自分に覆い被さるように浩之の姿があって。


あまりに近い距離に、ドキリと心臓が高鳴ってしまう。


「・・・お、まえ、大丈夫か・・・?」


少し息を詰まらせた声に顔を上げれば、心配げな表情。


「・・・え・・・だいじょうぶ・・・て・・・?」


ハッとして。ちらりと床に視線を向ければ、いくつもの本が散らばっていた。


ようやく事態に気がついて。悦子は咄嗟に目の前にある浩之の胸元の服をつかんだ。


「―――わっ私の方より!あ、あんたの方が大丈夫なんかっ?!」


「・・・お・・・俺は平気じゃ・・・」


少しの距離をさらに縮めるように顔を近づけてきた悦子に、浩之はギクリと表情を強張らせる。


庇うように本棚につけていた両腕を離して、慌てたように立ちあがった。


顔を背けようとするけれど。悦子の手が背中に触れて、かあっとなってしまう。


「本当に大丈夫なんか?本・・・当たったんやないの?ご、ごめん・・・かんにん・・・」


きゅっと服を掴まれるのを感じて。浩之は恥ずかしく思ってしまう自分にイライラして、勢い良く振り向いた。


突っぱねようと怒鳴ろうとして・・・。


「「―――っ!?」」


口元を掠める感触。


あの時と同じ。偶然の距離とタイミング。


くいっと服を引っ張って顔を近づけようとした悦子の唇が、浩之の振り向いた瞬間の口元に軽く触れた。


キスと呼ぶには程遠い。本当に微かな接触。


けれど記憶に残るいつかの思い出が、二人の間に熱を持たせていた。


パッと赤い顔をして悦子が一歩離れる。


浩之は一瞬だけ視線を床に落として少しだけ視線をさ迷わせた後、ふっと視線を悦子に向けた。


「・・・な・・・なによ・・・?」


何故だかじっと見つめてくる浩之に、悦子は思わず腰が退ける。


「そ、そんな恐い顔せんでもっ、も、もう責めたりせんよっ・・・!」


あの時に胸倉を掴んで怒鳴ったことを根に持ってるのかと思って、悦子は焦った声を上げる。


「べ、べつに、もう私もはじめてやないしっ!あ、あの時のだってっあんたのいうとおり、べ、べつに大したこと
 ないんよっ!じ、事故みたいなもんやしっ!なんやよう覚えてないしっ!い、いまのだって気にせんっ」


全然、全然・・・気にせんっ。あんなのっ。


視線をキョロキョロとさ迷わせながら、悦子は一気に捲くし立てた。


「ほ、ほうよっ・・・あ、あんたのほうこそっ・・・。ぶーのくせしてっはじめてやないてっ・・・は、はじめて
 やないなんて・・・・・・」


自分で言いながら、なんか虚しいというか・・・悲しくなってきた。


どんどん気分が意味も無くヘコむ。


「・・・ど、どうせ私ははじめてやったよっ・・・。2回目もこんなんで・・・どうせモテんよ・・・私は・・・」


いつのまにか愚痴に変っている。


「・・・・・・・・・・・」


ブツブツと呟く悦子の声を聞きながら。浩之はいまだ、じっと悦子を見つめていた。


なんとなく・・・目が離せない。


視線が、知らず・・・口元を捕らえて。


微かに触れたぬくもりが蘇る。


自分でもなにをやってるのかわからなくて。気付いた時には、手を伸ばしていた。


けれど捕らえようとしたその時。


「なにっ・・・・・・っ!?」


大げさに動揺してしまった悦子は後に飛び退きすぎて、ついでに足元にあった本に足をとられて。


後にひっくり返りそうになって。ゴンッ!と見事に壁に頭をぶつけるのだった。











「・・・ボケ・・・」


ベッドの脇に立って、浩之はボソリと呟いた。


気を失った悦子を浩之が保健室に運んだのだ。


ぶつけた頭が痛むのか、悦子はむむ〜っと眉根を寄せて気を失っている。というか、眠っている。


じっとその寝顔を見つめて。浩之は自然と向いてしまう視線の行き先に、戸惑っていた。


離せない視線。誤魔化せない、熱。


どうしたらいいかわからなくて。


『じ、事故みたいなもんやしっ!なんやよう覚えてないしっ!い、いまのだって気にせんっ』


悦子の言葉が、胸を痛める。


そんな人の気も知らず、勝手に意識を手放した悦子に苛立ちが浮かぶ。


何も知らんで・・・。



「・・・・・・はじめてにきまっとるやろっ・・・ボケッ・・・・」



思わず呟いてしまった言葉に、浩之の顔はますます赤く染まるのであった。














あとがき


あ、あれ?なんかすみません・・・物凄く微妙な終わりですね・・・。

でも、なんかこれ以上書くと、さらに無駄に長くなりそうなので、このお話はこれで終わりということで。

前回の悦子がちょっと穏やか過ぎたかな〜と思ったので、今回は色々とハイテンション気味です。

どこまでいっても、「好き」という言葉が浮かばない二人が結構好きです。

幼馴染ってそんな感じじゃないかな〜という、勝手な妄想なんですけどね。


ちゃんとした両思いとか、ちょっと強引な浩之とかも書いてみたいんですけど・・・ど、どうでしょう・・・?

両思いor強引浩之。

ご意見ありましたら、是非お便り下さったら嬉しいです。

そして前作で感想下さった方、とても感激でした。ありがとうございましたっ。

今回の小説もお気に召して下さっていれば、幸いです。(あ、ありきたりな内容でしたけど・・・苦笑)