あの女が大江戸一家の・・・極道の跡取り娘だと知ったのは、
コンビにで立ち読みした時に偶然手に取った一冊の雑誌を開いた時の事だった。

一瞬、サングラス越し目を見開き驚いたけど、冷静にあの女を思い返せば・・・・思わず笑ってしまった。
あの喧嘩の強さは並みの強さ何てものじゃなかったし、何よりもあの強くて澄んだ瞳。そして心。

親友達や3Dの連中が、あの女だけには心を開いた訳も今なら理解出来るからか・・
世間一般では驚くその事実を、俺は結局あっさりと認めてしまった。
認める・・それはこの事実を、今頃、知ったあいつらも一緒の事なのだろう・・
自分自身がそう思う事に、また無性に可笑しくて雑誌片手にガラにもなく一人声を出し笑った。

そんな俺を見て周りにいた客や店員は不審がり側から離れて言ったけど・・。




   淡淡。



もう一度・・彼女に会いたいと思った。
もう一度・・彼女のぬくもりに触れたいと思った。
もう一度だけ会えば・・この薄暗い淡淡な世界から救ってくれる様なそんな気がした。



夜の体育館は、外の灯りや非常用の出入り口の緑の灯りが淡々しく差し込み昼とは全く違う別世界。
男臭さと汗臭さが残り、ひっそりと静まり返るその場所は・・自分と似通う様な物を感じ不思議と心穏やかにさせてくれた。

黒「会える訳ねーか・・」

淡い気持を消える様な声で言った後、無造作に転がったバレーボールに軽く触れる様なサーブは広い体育館に虚しく音が響き渡った。
二度と足を踏み入れる事が無いと思っていたこの場所・・辞めた白金学院。

あの時もそうだった・・。自暴自棄に陥り暗闇の中を彷徨う様に辿り着いた先が不思議とココだった。
そんな中、眩しく光り輝く外の世界から来た様に、俺の前に現れた女・・山口久美子。通称ヤンクミ。

「辞めさせられた」ではなく「辞めた」という様になったのは・・
親友2人と、その親友達が最後の切り札かと言う様に、俺の前に引き連れて来た3D担任の彼女に世話になった時から。

(自分の人生、自分で切り開け・・・か)

彼女には一応感謝している。・・・・・けど、人生そんなに甘い物じゃない。現に最近働いてた職場を首になった・・。
仕事は真面目に探しても高校中退の俺を雇ってくれる所は中々見つからなくい。元白金の生徒だと知られれば尚更の事。

今日も職業安定所や街の張り紙などを見てはブラブラ仕事探しに出たものの結果は散々。
何処に行く宛てもなく辿り着いた場所は夜の学校・・・辞めた白金学院だった。

  黒「どいつもこいつも色眼鏡で見やがって・・チクショウ」

無性に言いようの無い腹立たしい気持が溢れてきて、側のゴミ箱を力いっぱい蹴り上げると
音を立てて響き渡りそれと同時に中身がそこら中に散らばる。

(やってしまった・・)

荒々しい呼吸を整え冷静さを取り戻しながらそこら中に散らばったソレを見ると、
自分で取ったその行動に虚しい気持に駆られその後は少しの罪悪感が生まれる。

「こらぁーー!!」

不意に後ろから投げかけられた説教がましい言葉に、治まりかけいてた腹立たしい気持にまた火が点く。
軽く舌打ちをした後、序でと言っては何だが側に転がったバレーボールも蹴り上げてやる。
当然振り返り文句の一つでも言うのは、今の気分、今の状況、この俺にとっては当たり前な事な訳で・・

黒「うっせーな〜!文句あんのか〜コラァ!」
ヤ「文句ならいっぱ〜い、あるぞー!黒崎ー!」
黒「・・・・げっ」
ヤ「覚悟出来てるんだろーなぁ!?」

振り返ればれば会いたいと願っていた仁王立ちの彼女の姿があって・・
その・・またもや強烈な再会の仕方に顔が引きつり頭痛さえ覚えそうな・・・そんな久しぶりの再会だった。

ヤ「バレーボールは蹴る道具じゃねーんだぞ!」
黒「・・んな事、知ってるっつーの。元バレー部員だった事忘れたのかよ?」

腕を組みながらズカズカ歩み寄って来ては、さすが教師と言う様な言葉を並べ延々と説教を始め出す。
それを黙って聞いていると、何だか可笑しくて、何処かくすぐったい様な・・先ほどまでの腹立たしい気持は全て何処かに消えていた。
寧ろ心が躍っているかの様に、彼女に会えた嬉しさと期待に似た気持が膨らみ溢れていた。

ヤ「だから・・何があったか知らねーけどな、これからは物に当り散らすんじゃねーぞ!分かったな!?クロ!返事!」
(もう、クロ呼びなってるし・・・・面白れぇ)
ヤ「何笑ってんだよ?」
黒「・・別に。 ま・・・人に当たるよりかは、成長したと言って欲しいけど」
ヤ「うっ・・。可愛くねーヤツだな・・」

説教が終わったかと思うと、今度は一人ブツブツ文句を言いながら散らばったゴミを片付け始める。

(・・たく。しゃーねーなぁ・・)

そんな彼女を見かねて渋々自分で散らかしたゴミを一緒に片付けた。
冷静に考えてみればその自分自身が今取っている行動が信じられれなくて思わず苦笑が零れた。

ヤ「・・で?お前は何してんだ?」
黒「え?俺は・・別に・・そ、その・・なんとなく」

ゴミを拾い片付けながら不意に投げかけられた質問に「気付けばまたココに来てた」なんて
カッコ悪くて言えなくて、思わず言葉が詰まり情けない返事をしてしまう。
淡いサングラスの中の俺の瞳を真っ直ぐに見つめる彼女の強い視線が、何もかも見透かされている様な感じがして・・居心地が悪い。

  ヤ「そっか」

そんな俺にトクンと胸が打たれる様な感覚になるその一言と、向けられた微笑み。
切なく締め付けられる様に胸が痛くなって胸元を知らず知らず押さえてしまう・・この気持は・・

(マジかよ・・・・)

あの日・・。無言で差し伸べらた手と、真っ直ぐに見つめられた潤んだ瞳がずっと忘れられなかった。
思い出せば思い出す程、感じた事の無い様な胸の痛みに酷く襲われ・・その、つのる想いは泣きたくなるよな気持。
間違いであって欲しいと願っていた彼女への想いが本物なのだと嫌になるぐらい自覚させられる。
それも目の前にいる彼女自身に・・。

ヤ「あたしさ〜夜にココ来ると、いつも思い出すんだよな〜」

綺麗に全部を片付け終わり満足そうに笑うと、一つ大きな背伸びをしながら言う彼女に思わず見とれてしまう。
それは暗闇の中に咲いた光輝く小さな花の様で・・・・何故か目が離せない。

ヤ「お前をさっ♪」

クルリと振り返り当然と言う様に俺を指差し言う彼女は悪戯っぽくあまりにも子供の様に笑うから、
何だか緊張の糸がプツリと切れた様につられて俺からも自然と笑みが零れた。

黒「・・俺も」
ヤ「おっ??そりゃ、光栄だね〜♪」
黒「俺にとっては厄介な事何だけど・・」
ヤ「一言多いんだっつーの!」

彼女に会いに行く勇気は持てなくて、輝く世界にいる彼女や3Dの連中を目の当たりした時、
自分自身が何だか惨めで情けない男に感じそうで・・それが怖かった。
だから本当は、ココに来ればまた彼女がヒョッコリと現われかもしれない・・そう、心の隅で期待していたのかもしれない。

ヤ「バレーあたしと、やろ^^」
黒「ハァ〜!?何が悲しくてお前の遊び相手になんなきゃいけねーんだよ!?」
ヤ「別にいいじゃん♪・・・あ〜!?もしかして・・クロって実は下手くそだったりか〜??(笑)」

気分を逆撫でしてくれるその問いに無意識に眉間に皺を寄せてしまう。
3Dを引っ張り何かに集中させる時には、この挑発的な発言が彼女にとっては最も効果的だと思っている事を俺は知らない。

黒「・・・見返りあんのかよ?」
ヤ「そうだな〜(悩)」
黒「まさか、タダでとは言わねーよな?」

ヤ「愛がいっぱい詰まったジュースを奢ってやる!どうだ?」
黒「・・・・・ハッ!?」

飲みたいかも・・なんて不覚にも思ってしまった自分に苦笑しながら、あどけなく笑い向こうで待つ彼女に無言で優しくボールを放つ。
結局、彼女の挑発に上手く乗せられ・・遊びに付き合うことになったのだ。

その愛の詰まったと言うジュース一本を手に入れるために・・


淡々しい夜の体育館は時間の流れが止まった様に2人だけの優しくて暖かい世界に思えた。
あの時は叩き返す事しか出来なかったソレを、今では2人一緒に子供の様に必死になって追いかけている。
腹を抱えて笑ったり叫んだり、体を流れる汗も忘れ走り回り・・彼女に付き合った。
寧ろ夢中になり過ぎていたのは俺の方だったのかもしれない・・。

淡淡な世界が変わり始める・・・

何故なら俺に手を差し伸べたのが、心から会いたいと願っていた・・またもや彼女だったから。


一挙一動を目が離せないとは、こういう事を言うのだろうか・・・。

ヤ「乾杯〜!」
黒「何で乾杯になんだよ・・」

彼女が買ってきた愛のつまっていると言うジュース。
俺にはスポーツ飲料で彼女は苺オレ。
壇上に腰を下ろし広い体育館を見渡す様に横に並んでそれに口をつけた。
他愛も無い会話の間に見せる彼女の仕草・・・足をブラブラ。ストローをチュチュー。ご機嫌な鼻歌。

・・・・本当見てて飽きない面白れぇヤツ。

ヤ「やっぱクロ上手いもんだな〜」
黒「当たり前」
ヤ「可愛くねぇ・・お前は沢田みたいに愛想の無いヤツだな・・たく」

突然出せれた友人名前。親友とも言えるその名前に変な違和感を覚え不とテレビの中にいた彼を思いだした。
それは、あの3Dの連中が必死になりこの女を守ろうとしていた・・この場所での・・あの日の光景。
今までにない迫力のある声と強い瞳・・・そして熱い想い。

(熱い想い・・か)

あの時、その想いを抱き先頭に立ってなっていた人物は・・・俺のダチ・・そして親友。
難しい問題の答えがもうすぐ解けそうな、解いてはいけない様な・・・そんな物が頭の中をグルグル駆け回る。

ヤ「お〜い!聞いてんのか!?あたしも中々なもんだろって!」
黒「え?あ・・・お、おう。 お前も結構上手いじゃんよ」
ヤ「だろ^^あたしは運動神経だけは昔っから良いんだよな〜♪」
黒「喧嘩もハンパじゃねーし」
ヤ「うっ・・・その、クロ!前は悪かった・・殴って。ずっと気になってたんだ・・すまなかった」
黒「ばーか!気にしてねーよ。 ま・・普通の女だったらカッコ悪くて顔なんて合わせれねーけどな」
ヤ「し、知ってるのか!?そ、その〜あたしが・・」
黒「お前はある意味有名人だもんな?」
ヤ「て事は・・み、見てたのか?テレビ」
黒「ばっちり♪」
ヤ「な、何で!?お前はテレビとか見そうに無い人物なのに〜!くぅ・・!」
黒「勝手に・・んな事決めんな」
黒「けど・・お前がココで・・この壇上で言った言葉・・すごいと思った」
ヤ「す、すごい??」
黒「俺も、お前の言った言葉聞いて・・何年振りか分かんねーけど泣いたから」
ヤ「・・・・へ? お前が泣いた・・のか?」
黒「・・そ。だから、ある意味すごいよ・・オレを泣かせたお前は」
ヤ「・・クロ」
黒「あーー!あいつらが羨ましいぜっ!」

その場に寝転び天井目掛けて叫んだその言葉。
それはあの日から変わらぬ後悔の気持・・俺の本心。

ヤ「な・・・何がだ?・・・ん?クロ??」

俺の曇った顔に心配りする様に気にかけた表情で覗き込む彼女の行動にまた胸が切なくて痛くて・・・・・悲鳴を上げる。

黒「お前の生徒やれるから」

覗きこみオレに問う彼女に我慢の限界が来て腕を強引に引くと彼女が俺の胸に力なく倒れこんだ。
・・・もう、止める術など思い浮かばなかった。
想像以上に細くて華奢な体は暖かくて柔らかくて・・鼻に届く髪の甘い香りが益々理性を遠ざけ
ジタバタ暴れ逃れようとする彼女を抱きしめる腕に力が入らずにはいられなかった。

ヤ「ちょっ!?///な、何やって・・クロ!?///」
黒「うるさい・・こういう場合は静かに抱きしめられてろ」
ヤ「う、うるさいって・・!?/// し、しかも命令してんじゃねーよ!/// 第一何で・・」
黒「俺・・」
黒「俺、仕事・・・首になって・・今日も一日中探してたんだけど
  中々雇ってもらえる所なくて・・気付いたらまたココに来てた。情けねぇ・・」

一つ深呼吸をしてから彼女の耳元で静かに言った途端
叫び逃れよとする彼女の動きがピタリと止まり・・上にいる彼女と視線が絡み合う。
ゆっくりと伸びてきた震えた指先が俺の髪をふわり撫で・・
まるで幻覚でも見ている様に心が穏やかになって行くのを感じた・・。
強張った彼女の体が何処か和らんだかの様に頭が胸元にそっと降りると同時に体を俺に預けてくれたのが優しく伝わった。
・・・・・・・それが泣きたくなるくらい嬉しかった。

ヤ「そっか。話してくれて・・ありがとう」

・・・ありがとう・・・

何でコイツの言葉一つ一つは、こんなにも胸が熱くなるのか・・
何でコイツには自然体な自分を曝け出せるのか・・・

ヤ「大丈夫・・クロ。あせらなくても・・お前には挫折を乗り越える力がある事・・あたしは知ってる」

少しの沈黙の後、胸からゆっくり顔を上げると彼女の長い髪が俺の頬や耳に優しい感触を与える。
相変わらずの濁りを知らないその潤ん瞳は俺を真っ直ぐ見下ろすと ・・・
「お前にはその力があんだろ」 あの日の言葉をもう一度胸に深く刻ませた。

ヤ「お前の服・・煙草臭せぇ」
黒「吸うんだから当たり前だろーが」
ヤ「ガキは止めろ」
黒「努力します」
ヤ「お前の心臓ドキドキ言ってんぞ」
黒「言ってないきゃ死んでんだろーが」

寝転んだままきつく抱きしめている彼女の存在に心臓がうるさく鳴るなと言うほうが無理だと思う。
そんな俺の心境を全く分かってないかの彼女はケラケラ笑いながら体を起こし壇上に座り直すと飲みかけのジュースを差し出す。

ヤ「今日からお前はまた頑張れる!だからもう一回乾杯」
黒「だから・・それが何で乾杯になんだよ?」
ヤ「この場所は・・・縁起が良い」
黒「ハァ〜?縁起??」
ヤ「あたしが、この壇上からやり直せたから」

この場所は彼女にとってはスタートライン。
彼女がやり直せた・・原点とも言える場所での2人だけの乾杯。

(この女にはホント・・敵わねぇ)

真剣な表情で見つめる彼女に口元だけ笑い握った缶ジュースを差し出された彼女の持つパックに軽く当ててやる。
嬉しそうに微笑みまたストローをチューチューさせる彼女に苦笑しながら自分も喉に一気に流し込むと確かにソレは・・

・・・・彼女の愛の味がした。



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いつからだろうか・・。必需品とも呼べるサングラスを手放さなくなったのは・・・。
色眼鏡でしか見ない世間の奴ら・・汚ねぇ大人やセンコーをコッチから色眼鏡で見返してやるみたいな・・
単なる自己満足的な・・そう、コレは世間に対する俺の些細な反抗道具の一種。

ヤ「ソレ・・カッコイイよな〜♪」
黒「あ?・・サングラス?」
ヤ「うん。お前いつもそのサングラスかけてんだな〜」
黒「俺のトレードマークだから♪必需品ってやつ?」
ヤ「ふ〜ん。 けど、外した方が可愛いぞぉ」

彼女の言葉に思わず飲んでいたジュースを吐き出してしまいそうになり思考回路が遮断される。

黒「うっせーよ」
(か、可愛いとか言うなっての・・調子狂うぜ・・たく)
ヤ「だから、ソレ要らなくなったら、あたしに頂戴な♪」
黒「てめぇ・・・(怒) コレが欲しいから愛想で言いやがったな・・」

逃げるように壇上から飛び降り最高の笑みで手招きする彼女に怒りを忘れ呆れ笑いしてしまう。

ヤ「そろそろ帰んぞ〜!クロ〜♪早く来〜い♪来いよ〜^^」
黒「犬扱いかよ・・」

今まで人のせいににして生きてきた・・それを教えてくれたのは彼女。
挫折を乗り越える力が俺にはあると言い切った彼女に答えてやりたい・・その力を見せたい。
世間を見返すのではなく大事な人に・・彼女だけに理解してもらえればそれでいい。

今度は自分から彼女に会いに行こうか・・・
微笑み手を差し伸べる彼女に今度は自分から手を差し出したい・・。

夜の淡々しい世界じゃなく、光り輝く彼女がいる世界へ自ら飛び込むその近い未来を描き深く決意した。
空になった缶を片付けたごみ箱に目掛けて投げ入れる・・
今の俺の心境を表しているかの様にソレは真っ直ぐと飛び行くべき場所に飛び込んだ・・缶。

・・・それを見て彼女はまた柔らかく笑った。

ヤ「ストライク♪」

ゴミはゴミ箱へ・・
彼女は彼女の世界へ・・
俺は彼女のいる世界へ・・







約2ヶ月後・・


校門の前には誰がどう見ても相変わらずガラの悪そうな煙草を加える青年が一人ってとこか・・。
俺の前を通り過ぎる生徒は皆が揃いも揃って頭を下ろし視線を合わす事無く通り過ぎて行く。
下校時間真っ只中というこの時間を敢えて選んで来た・・・。
正直心臓がうるさいくらい高鳴りを覚えて何だか酷く落ち着かない。
足元に散乱する数本の煙草の吸殻がその事を証明してくれてるかの様に深く物語っていた。

内「アレ〜?クロ!よ〜う♪」

聞き慣れた声に視線をやると、一際目立つガラの悪そうな連中に紛れて笑い騒ぎ一緒に歩く小さな彼女の姿を発見して安堵感がこみ上げる。
・・・・・・が、何気なく目に留まった彼女の横で歩く一人の男の姿を見て複雑な心境に変わる。
あの彼がこんな風に優しく笑うなんて正直驚いた・・。その彼の視線の先には紛れも泣く彼女の存在。

(誰よりも一番憎み、最低だと思っていた人種に・・・よりよって惚れたかよ・・慎?)

頭には「なるほど・・」の一言がグルグル回り、理解に苦しむより変に納得してしまい
またその事が無性に可笑しくて腹の底から笑いがこみ上げてくる・・それはコンビニでのあの日の様。

内「何?何か可笑しい事でもあんのか??」
慎「ウッス・・」
黒「よう・・」
ヤ「あぁあーーー!?クロじゃん〜♪」
慎「クロ・・?」

彼女が俺を呼ぶ名の呼び方一つ変わった事に気が付くなんて・・これは間違い無いだろうと深く確信する。
鋭く痛い視線が俺を重視するのを横から感じるが「久ぶり」なんてありきたりな台詞を皆に言う。
ヤ「あたしにデートのお誘いでもしに来たのか〜?」
慎「あほか」
南「バーカ!相手がヤンクミで、そんな事ある訳ねーじゃん」
内「そそ!クロは慎と一緒で、非!恋愛至上主義だもんな〜」
黒「いや・・ま・・そんなもんだな」
ヤ「へっ!?」
「「「「ハァ〜!?」」」
慎「最悪・・」

ボソリと呟く様に言った彼には意味有り気に笑ってやると「笑えねぇよ」と直球で返って来た。

黒「初給料貰ったから・・飯行かねー?」
ヤ「お、お前・・仕事決まったのか!?」
黒「まぁな・・。・・・で、どうすんの?」

彼女の肩に手を回し組みながら覗き込む様に耳元で言うとあの日と同じ甘い香りがした。
その甘い香りに浸っている暇もなく、飛び交う鋭く痛い視線の攻撃を受ける。

(競争率高いって訳・・か)

ヤ「お前さ〜煙草くせーよ。ま〜た、匂いプンプンさせやがって・・この前も//////って!あわわ」
「「「「 この前〜!?」」」」

自分で勝手に思い出し勝手に言っておいては顔を真っ赤にさせる彼女は
居心地が悪いその場の責任を俺だと言うかの様に睨み上げるけど、久しぶりに会う俺にとってはその仕草も・・・・可愛く思うだけ。
苦笑しながら小さく「悪ぃ」と一応一言誤り、持っていた煙草を取り出してクシャリと握り潰し校門の側のゴミ箱に見事に投げ入れる。
その信じがたい光景に側にいた皆がそれを目線が追った。

ヤ「ストライク♪」
黒「野球じゃなくて、俺は元バレー部だっつーの」

「そうだったな」何て言ってケラケラ笑う彼女は子供の様に嬉しそうに俺を見ては頭をまた撫でた。
腕の中にいる彼女の感触を胸に刻み・・自らサングラスを外し彼女の眼鏡を外して代わりに自分のサングラスをにそっとかけてやる。

黒「眩し・・・」

いつもの淡淡な世界はもうソコには広がっていなく、彼女の世界に自分も立てたのだと改めて実感した。

ヤ「コレ・・お前の必需品って言ってたじゃんか?」
黒「・・やる。もう、俺には必要無いみたいだから」
ヤ「え・・?いいのか・・・本当に」
黒「おう・・それより、飯どうすんだよ?」
ヤ「またバレーボール付き合うか?」
黒「交渉成立だな♪」

周りを無視して意味不明な会話と行動を取るこの状況に・・彼らにとっては部外者な俺に
彼女に想いを寄せているだろう人物から言葉が投げかけられるのは当たり前な訳で・・

南「・・てか!ヤンクミそんなのかけてっと危ないじゃん!」
黒「コイツ・・伊達」

お前らそんな事も知らねーの?と言うように嫌味な笑みで周りにいる連中に軽く挑発。
  あの日、あの暗闇で眼鏡を外しバレーボールに夢中になれる姿は間違いなく伊達だと確信した。

慎「趣味・・悪」

言葉に詰まる面々の中、真っ直ぐに向けられた何処か自身満々な彼らしい表情とその言葉。

黒「お前には一番言われたくねーよ」
慎「分かってねぇーよ、お前は全然。ソイツ苦労すんぞ・・」

イソイソと自分の眼鏡を片付け終え俺達のやり取りを他人事の様に流す彼女は
「行くぞクロ〜!」なんて言いながらするりと手から離れスキップしながらご機嫌に先を進む。

慎「耳の穴かっぽじってよく聞いとけよ・・」

彼が何が言いたいのか言葉の意味の理解に苦しむがそんな俺を見て不敵な笑みを続ける彼に言い知れぬ嫌な予感がする。

ヤ「皆も早く来い〜!クロの奢りだぞ・・☆ あたしに続け〜♪」

黒「ハ・・ハッ!?」
慎「そー言う事・・アイツはあーいう女だって事。」
内「クロ〜♪読みが甘いねぇ〜」
南「残念賞〜♪」
クマ「ヤンクミ!待てよ〜!ずるいぞー!」
野「行くぞぉ〜!クマ・・走れ!」

先をスキップしながら進む彼女を男4人が追い駈けて行く背中を唖然と立ちすくみ眺めてしまう。

慎「お前が何やらかしたのかは知んねーけど、今度・・飯誘う時はココでは止めた方がいいぞ・・
  まぁ・・これからはお前が手出し出来ないように監視がかなり厳しくなるのは当たり前だけどな」
黒「マジかよ・・」

彼女がここまで鈍い女だとは・・・
けど冷静に考えればまだ俺にもチャンスがいくらでもあるという事。
彼女が鈍感であるからこそ生徒ではない俺にとっては少し安堵を覚える。

(やっぱ・・アイツ面白れぇ・・)

スタートラインに立った俺はこれから・・・頑張ってみるか。

黒「な・・慎。 後悔してるかよ?あの女を俺に紹介した事」
慎「全然。言っとくけど・・相手が何人で、誰だろうが問題は一切ねーから」
黒「おうおう〜言ってくれるねぇ」
慎「お前は・・?後悔」
黒「まさか。また救われたってのに」

親友と顔を見合し二人静かに笑った後、前で騒ぎ歩く連中の背をゆっくり追いかける。

その日の夜は皆でまたもや夜の学校に侵入し汗だくになるまで彼女の遊びに付き合せれる事になる・・

淡淡な世界は・・・・今日はっきりとした鮮明な世界に変わった・・。
目に映る全てのもの全てが新鮮で眩しい世界。

彼女にとっては俺の必需品はオシャレの一部になるのだろうけど
今日の日の光景を俺は一生忘れない様に瞳に焼き付けた。


これは柔らかい季節・・眩い光の中にいる女性に救われた青年が恋をするお話し。


                         end



て・・・言うか(ー_ー)!!慎クミはどうした〜!?・・と、突っ込みたい所ですが(汗)
ごめんなさ〜い(>_<)黒ちゃんがお先ですーvv 恋愛セレブだし・・爆。
またもや慎ちゃんと仲間達を絡ませてしまった・・(総受け人間だし)汗。
黒クミは今まで書いた事が無かったので創作は本当に楽しかったす(^v^)

けど、ココまでタイトルが2文字で一緒の漢字を使うと・・ムフフーvv通したくなりますねvv(笑)
他に何か良いタイトルあるかしらねぇ? ちなみにタイトルの「淡淡」は、うすくほのかなさまという意味です・・☆
それにしても・・有希の書く黒クミって・・・・暗っ!((+_+))ブンブン!現実逃避。
  『淡淡。』長編ss最後まで読んでくれて本当にありがとうございましたーvv