朝から真面目に働いたりして

ホント、変わるもんだよな

まだそんな自分に戸惑いもあるけど

そんな気持ちも、今の自分も、嫌いじゃないんだ。


でも、心のどっかで何かが足りないって、叫んでる。


足りないものが何なのか

なにがこんなに欲しいのか

その答えは、果てしなく遠くて。

でも、もしかしたら本当はとても近いのかもしれない・・・













仕事帰りの雨の中、家路につく途中。
夕飯を買いにコンビニに寄った時。

思わぬ再会を果たした。



それは、弁当の入った袋を片手に、
傘を広げようとしたときだった。

「・・・あれ・・・?・・・黒崎じゃねーか?!!」

「・・・・・・・・・」

突然の再会に・・・言葉が出なかった。

何故か嬉しそうに自分の名前を呼びながら、
近づいてくるその女は、白金学園の教師。

たしか名前は、山口久美子・・・。


別に、偶然会うなんてよくあることだ。

慎たちに偶然会ったときは、避けてたし、
後ろめたい気持ちが少しあって、驚いたけど。
でも、今の自分に後ろめたい気持ちなんてないと思うし、
ただの女一人にあったってだけで、驚くことないのに・・・。



嬉しそうに頬笑む女に、自分の名前を呼ぶ女に、

音が鳴り響いた・・・。



「・・・黒崎?」

すぐ傍に近寄ってきて、首を傾げながら覗き込まれて、
不思議そうに名前を呼ばれる。

「・・・・・・ッ・・・・・」

頬に熱が集まるのを感じて、思わず一歩後ずさって
顔を隠すように、片手で額を抑える。

「黒崎?・・・どうした、気分悪いのか?」

変だ・・・。なに緊張してんだよ・・・。

落ち着かせるように、息をつく。

「・・・なんでもねーよ。それより、あんた、
こんなところでなにしてんの?」

そういって、チラリと女に視線を向ければ、

「あ?お前、すげー濡れてるじゃねーかっ・・・・・・ッ!!」

改めて見てみて、また声が詰まる。

長い黒髪が艶やかにしっとりと濡れて、
濡れた服が張り付いた身体の線は思ったよりも華奢で、
下にきているキャミソールが透けて、鎖骨や頬には水滴が滴って・・・


触れたい・・・


そう思ったけど、無理矢理気持ちを押し込むように、
伸ばしかけた手をきつく握りしめる。


あの事件以来、逢うのは初めてだった。

今の自分がいるのは、この女のおかげだけど、
感謝する気持ちは沢山あるけど、
こんな風に感じたことなんてなかった・・・はずだ。


でも、久しぶりにその姿を見つめて、名前を呼ばれて・・・

何故かとても嬉しく感じている・・・。


この女にかかわると、おかしな気持ちになってばかりだ。

「ちょっと傘忘れちゃって」

「・・・ふーん・・・」

空を見上げて、まだまだ雨は止みそうにない。

「迎えは?」

「電話してみたけど、今誰もいないみたいでさー」

「・・・ふーん・・・」

どうするか?

傘をかそうか。さっさと別れてしまおうか。

もう少し・・・傍にいようか・・・。

そんなことを考えていたら、ヒョコっと身体を傾けて、
なにやらのぞき込んできた。

「それ夕飯?もしかして一人暮らしか?」

「あ?・・・あぁ」

視線を浴びて、持っていた弁当の入ったビニール袋を軽く上げてみる。

すると、女は何が可笑しいのかクスクスと笑いだした。

笑い声とその笑顔にくすぐったい感じがして、
なんかバカにされてる気がしてムッとする。

「・・・・・・なんだよ」

「いや、なんか似てるなーって思ってさ。やっぱ友達だな」

「・・・・・・?」

「沢田だよ。あいつも一人暮らしで、コンビニ弁当ばっかなんだよな」

「・・・・・・・・・」

思いだしたように、さらに笑みを深くする様子に、
何故か苛立たしくなった。

すぐ近くにいるのに。今目の前にいるのは俺なのに、
こいつの頭の中には慎の姿がある気がして、それがすごく嫌だった。


傍にいるのは俺だろ?

俺を見ろよ・・・慎なんか、他のヤローなんか思いだして笑うなよ・・・。



「一人暮らしの男なんて、みんな同じようなもんだろっ!」

苛立たしい気持ちを隠していられず、吐き捨てるようにいいながらも、
衝動的に掴んだ女の腕を引っ張って、雨の中を早足で歩き出した。

「ーーーえっ、お、おいっ、黒崎っ??!!」

「当分止みそうにねーから、家こいよ。」

歩きながら傘をさして、女を中に引き入れる。

「え、いいのか?」

「・・・・・・ああ」

衝動的にしてしまった行動で、深い意味なんて別になかったけど、
何の動揺もせずに、それどころかワクワクと嬉しそうな問いかけに、
掴んだままの手に力が入る。


わかってんのか?

少しぐらい意識しろよ。


とか、思っていたら、隣で歩く女が、繋がったままの腕を揺らし始めて、
チラリと視線を向けたら、

「なんかいいな、こーゆうのっ」

そういって、にっこりと頬笑んだ。



とても柔らかくて、優しい笑顔に、
ドクンッと身体の奥深くで、鼓動が強く鳴り響いた・・・。









雨の中、いつのまにか手と手を繋いで一つの傘の中を並んで歩く。

暖かな笑顔と温もりを隣に感じながら、
静かに鳴り続ける雨音と鼓動に耳を傾けて、
小さく笑顔を作れば、自分にも暖かなものが溢れてきた。



目に映るモノが、耳に届く音が、ずっと叫んでいた胸の奥を
埋めていくのを感じて、やっと気がついた。



きっとずっと欲しかった。

もう一度、その姿を、優しい顔を見たかった。

もう一度、触れて、名前を呼んで欲しかった。



その存在だけがくれる、暖かさや幸せが欲しかった。



それは、あまりに自分と遠すぎて、この時間がなければ、
二度と手に入れられるモノではなかったかもしれない。

でも、一つの偶然があって、今はすぐ近くに感じられる。





遠くて近くて、暖かくて

それが恋なんだと気がついて・・・



女の



久美子の



手をそっと、握りかえした。











あとがき



黒崎くん、好きなんですがキャラがようわからんで、
わけわからん話になってしまいました・・・。

「久美子さん、あんたは彼が好きなのかい?」

てゆーか、「あんたホントにヤンクミかい?」

という、久美子さんの影が薄ーーーい作品となってます。



お話の中で、久美子さんを「女」と書いているのは、
まだ今の黒崎は、イメージ的に「久美子」より「女」
っていう感じがするのと、最後に使いたかったので、そうしました。

もし不快に思われた方いましたら、申し訳ありませんです。