グッドED後(恋愛EDじゃない方)の設定です。








ガキなお前も、今にきっと大人になるさ。


だけどそれも、俺様のそばでだけでいい。この腕の中だけでいい。


そうじゃなけりゃ・・・・・・大人な俺様が、ガキになっちまうだろ?








今はまだ、寛大な大人でいてやるから。


お前も俺様の知らないところで、大人になるんじゃねーぞ?


付いてまわるガキのように、俺様にしがみついてたっていい。


お前は俺様の言うことだけ聞いてればいい。


何故って・・・お前は、


もう、俺様のものなんだから・・・。














ガキと俺様 














朝。日の光が眩し過ぎる。


「・・・二日酔いの人間にはキツイ天気だな・・・」


マンションの玄関先で、若月は眉根を寄せて空を見上げた。

ズキズキと響く頭痛に悩まされ、思わずぼやく。

眩しいくらいに輝いた太陽と爽やかに吹く風。晴れ渡る青空。

しばらくこれとはなしに見上げていた若月の口元が、ふいに緩やかな笑みを浮かべた。


「あいつには、良い天気・・・か」


ズキズキ痛む脳裏に、一人の生徒の姿が浮かぶ。

一年で100キロあった体重を50キロ以上も落とした生徒。

ウォーキングを兼ねた散歩が好きみたいだと、笑っていた。

まだまだガキな、手のかかる生徒。

若月にとっては、お気に入りの。・・・いや、特別な女。





思い描いて、自然と笑みが浮かぶ。

そんなささやかだけど、どこか甘い感情に二日酔いの頭も癒されていくような気がした。





けれど、そんな思いも一時のこと。

学園に着いた若月は、あるものを見つけ・・・眩暈を起こしそうなほどの頭痛に再び悩まされることになるのだった。











「・・・・・・はぁ・・・・・・ふ〜・・・・・・」


昼休み。ヒトミは、保健室のドアの前で大きく深呼吸をしていた。

落ち着こう。落ち着こう・・・。大丈夫。大丈夫。

そんな風に心の中で自分を励ましながら、ドアノブにそっと手をかける。

ドキドキとする心臓。

ダイエットを無事に成功させたホワイトデーに若月から、高校生の頭には・・・というか、ヒトミの頭には
許容範囲オーバーなお話のおまけつきで保健室に通うように言われてしまってから、数ヶ月。

律儀にちょくちょくと顔を出すのは、心の中に先生がいるから・・・。

逃げるとどうなるかわからないから、というのもあるけれど。


どっちにしても、すっかり通いなれてしまった保健室。

だけど今日はいつもと違う心境だった。

一年前とは全然サイズの変わったスカートのポケットの中身を思わず握り締める。


意識してしまう、唇。



そろそろ・・・付けてみようと思ったのは、見てしまったから。


大人びた女生徒が、先生を好きだと言っていて。その後、先生と話しているのを見てしまったから。

ズキンとした。先生の好みはきっと・・・あんな風に大人びた綺麗な人だと思うから・・・。

先生を取られたくないなんて、思った自分が恥ずかしくて、どこか怖くて。

だけど気になったら、気分は沈むばかりで。

思いついたのは、子供っぽい対抗だった。

対抗したって。こんな事したって、どうなるものでもないけれど。

まだ早いとか。似合わないとか。言われるかもしれないけど。

何かしたくて。何かしなきゃ、気持ちが深く沈んでいってしまいそうだったから。





ドキドキする心臓。少し切なくて、苦しい気持ち。


ヒトミは意を決して、ドアを開けた。











開いたドアにチラリと視線を向けて、若月は目を細めた。


(やっと来たか・・・。)


ずっと、くるのを待っていた。

待ってるだけじゃなく、もういっそ無理やり引きずってきてしまおうかとも思っていたくらいだった。

昼休みに来なければ、部屋に引っ張り込む気でもいた。

来たことに安心しながらも。その姿を近くで見ると、どうしようもない苛立ちが心を掻き立てる。


「・・・せ、せんせ?・・・あの・・・」


ヒトミは俯いたまま、椅子に座っている若月の目の前まで来るとおずおずと顔を上げた。

ドアを開けて目が合った瞬間。ひどく鋭い視線を向けられてしまった。

いつもとどこか違う雰囲気に・・・怒っているんだと、ヒトミは思う。

けれどなぜ怒っているのか、ヒトミにはわからない。

もしかして・・・と思うことはあるけれど。そんなことで、先生がこんなに怒るなんて考えられなかった。

でもその考えが正解なんだと、すぐに気づくことになった。





「・・・どうしたんだ、その唇・・・」


椅子に背を預けて、鋭く見上げてくる視線と低い声。

若月の言葉に、ヒトミはビクリと肩が竦んでしまった。

やっぱり、早かった・・・?それとも・・・。


「あの・・・やっぱり・・・似合い、ません・・・よね・・・?」


思わず、キュっと唇を噛み締めた。

似合わないくらいで、そんなに怒らなくてもいいのに。

悲しさを紛らわせようとしたって、目元が熱くなるのは止められない。

悔しくて、切なくて。

ヒトミは自分の唇を手の甲でぐいっと拭った。

ほんのりと手の甲が赤く色付いた。

ポケットの中に入れていた物を取り出して、握り締める。


「やっぱり・・・私には、まだ早かったですかね?」


淡い赤の口紅。

去年のクリスマスに先生に貰った色付のリップクリームとは違う、ちゃんとした口紅。

自分には、まだ・・・色の付いたリップクリームがちょうどいいんだと、わかってたけど。

本当に柔らかく色付く程度の控えめな口紅だったら、もしかしたら大丈夫なんじゃないかと思ったのだ。

事実、自分で鏡を見てもそんなに変だとは思わなかった。

梨恵ちゃんや優ちゃんだって、似合う似合うと言ってくれた。

だけどやっぱり、大人からしてみたら。全然、駄目だったんだ。

あまりに子供な自分が惨めで。居た堪れなくなって。

それでもヒトミは熱くなる目元を必死で押さえ込んで、笑顔を作った。


「また、出直してきますっ!」


そう空元気に言って、クルリと背を向けて保健室を出て行こうとする。

けれど、それは突然伸ばされた手によって阻止されてしまった。





「−−−誰が似合ってないなんて、言ったんだ?」


ぐいっと腕を引っ張られ、再び先生の前に顔を戻される。

驚いている間に頬を両手で包み込まれ、目の前には先生の顔。

その眼差しは、まだ少し怒っているようにも見えるけれど、どこか苦そうにも見えた。


「お前は、自分の容姿を低く認識し過ぎだ・・・」


ため息混じりにそう言って、若月は頬に添えていた指先をそっとヒトミの唇へと寄せた。

乱暴に拭ったことで少しはみ出してしまった口紅を拭って。

まだ微かに色付いているふっくらとした唇に優しく触れる。


「・・・せ・・・せん、せ・・・?」


ビクリと震えたヒトミに小さく微笑んで。

さっきまでの泣きそうな顔を思い出し、それを苦笑いに変えた。


似合ってないわけじゃない。


・・・似合いすぎて、気に入らなかった。


リップクリーム一つ。口紅一つで、女は変わるもの。

それでなくても、100キロの体重から、見事に綺麗に痩せたヒトミはとても可愛くなっていた。

男が思わず視線を向けてしまうくらい。100キロの頃は見向きもしなかった奴らが、好意を寄せてしまうくらいに。

それだけでも心がざわつくというのに。

口紅をつけただけで、いつも以上に自分に視線が向けられていたことをこいつは何もわかっていないのだ。

痩せたからといって、ヒトミの心が変わったわけじゃない。

ダイエットをすることで、少し甘えていた自分の背中を押しただけにすぎない。

そんなこいつが、大人になるのを。綺麗でいい女に成長していくのを見るのが、楽しみではあるけれど。

自分の知らぬところで綺麗になっているのは、どうにも納得できなかった。

遠く離れた場所でこいつが好意の目を向けられているのが、気に入らなかった。


「あ、あの・・・せんせいっ・・・」


唇を触られ、じっと見つめ続けられるのに耐え切れなくなったヒトミが赤い顔で若月の手を引き離す。


「に、似合ってないんなら・・・何をそんなに怒ってるんですかっ?」


少し膨れ面でヒトミが問いかける。

若月はニッと笑みを浮かべ、ヒトミの腰に手を伸ばすと、そのままぐいっとヒトミの身体を引き寄せた。


「ちっ・・・ちょ、ちょっとっ・・・せ、せせせんせっ?!」


突然、前のめりの体勢で腕の中に抱き込まれ、ヒトミはわたわたと暴れようとする。

ずっと握り締めていた口紅が地面へと落ちる音がして、若月は床に転がったそれに一度だけチラリと視線を向けると、
ぐっと腰にまわす腕に力を込め、胸元に埋まっていたヒトミの顎を持ち上げて視線を合わせた。


「俺様に無断で、口紅なんか付けるからだ」


「む、無断って・・・口紅付けるのに許可が必要なんですかっ!?そんなのおかしいですっ」


「おかしくねーさ。・・・言っただろ?俺様がお前を大人にしてやるって。勝手に大人になるなんて許した覚えはないぜ?」


囁くようにそう言って、若月はヒトミの唇を指でなぞる。


「・・・普通にしてても誘ってやがるのに・・・・・・そんなに・・・キスがほしかったのか・・・?」


ニッと八重歯が顔を出し、キラリと妙に目が妖しく光ったような気がする。


「・・・・・・は?」


ヒトミは、妙な展開に一瞬呆け。


「せっせんせっ?なななっなんですかっ?ちょっ、ちょっと?」


危険な空気を感じ、必死で手で突っぱねるも、腰を捕まれ顔を押さえられていては逃げる道はもうすでになかった。

うぅ〜っと恥ずかしさに目を瞑りながら、真っ赤な顔で懸命に逃げ出そうとするを可愛く思い、

目の前にある柔らかな唇を美味しそうだと思い、

元々「教師と生徒なんて大したもんでもないさ」な若月は、これをいい機会と思ったのか。

一応、我慢してやっていた唇を奪う行為を、実行に移すことにした。








「−−−っ!?!?」


ぐっと逃げる顎をつかみ上げ、キスをした。

触れるだけのキスをして離せば、ヒトミは見事に固まっていた。

信じられないというような顔で瞳を大きく見開き、若月を凝視する。


「・・・な・・・なんですか・・・今のは・・・・・・」


呆然とした呟きに、若月は思わず吹き出した。


「クッ・・・お前な、色気のある言葉とはいわねーけど、それはねーと思うぞ?」


「・・・わ・・・私の・・・ファ・・・ファーストキス・・・だったん、ですけど・・・?」


「おお、そりゃ当然だな。もし・・・ファーストじゃないなんて言ったら・・・・・・・・・」


「−−−ぜぜっ絶対ファーストですっ!!初めてのファーストっ!それ以外ありえませんっ!!」


再び妖しい視線を向けてくる若月に、ヒトミは力一杯叫んだ。

初めてでよかった・・・。と、変なところでほっとしてしまう。

自分の状況も忘れ、ほっと息をつくヒトミに若月はクツクツと笑いながら、けれどそれも少しのこと。

ふっと何かを思い、視線を鋭くさせた。


「・・・・・・もう勝手に、俺様のいないところで付けるんじゃねーぞ?」


「・・・え?」


「付けるのは・・・俺様の前だけにしとけ・・・。それに・・・」


初めても。その次も。この先も。


「・・・俺様以外に触らせたりしたら・・・・・・どうなるか・・・覚悟しておけよ・・・?」


「・・・せ、先生・・・?」


微かに怯えたように。けれど冗談だよねと、言いたげにヒトミは見上げる。

若月の心の奥にある本当の欲望など、何も知らないというその瞳に、心は騒いだ。

思いのままにヒトミの顎を再び掴んだ。


「−−−せっ・・・っ!?」


ビクリと緊張して固まったヒトミの身体をさらに抱きこんで、角度を変えては触れ合わせて、何度もその唇を奪っていく。


「・・・ふ・・・っ・・・んっ・・・っ・・・・・・はぁ・・・っ・・・」


触れるだけのキスとは違う。噛み付くようなキスにヒトミはどうしたらいいかわからずにただ、若月にしがみついた。

ヒトミの身体から力が抜けるまでキスは続き、唇を舐められ、ヒクリと小さく身体をびくつかせた後、ヒトミの身体は
若月の腕の中で崩れ落ちていった。

息苦しさに胸元にしがみつくしかなくて、涙を浮かべながら息を整えようとするヒトミの髪を若月の手が優しく撫でていく。

感じるぬくもりが暖かくて、優しくて・・・。

けれどヒトミは、ふっと今の状況を意識して、混乱する。

な・・・何がおきたんだろう・・・?

どう考えても、キスされた以外あるはずもなく。

急激に心臓がバクバクしだした。

あまりの恥ずかしさにどうしたらいいかわからなくなる。

大体、なんでこんなことになってるんだろう?

そう考えて自分の立場を思い出すと、切ない気持ちが浮かんできた。

違う理由で涙が零れてしまいそうで、ヒトミはがばっと若月から身体を離すと、真っ赤な顔で俯いたまま、


「・・・じょ、冗談が過ぎますっ先生!!」


そういって、慌てて保健室から出て行ってしまった。








先生がどんな意味でキスをしたのかわからない。

いつも、冗談なのか本当なのかもわからないことだらけで。

先生にしたら。大人にしたら、大したことないのかもしれない。

そう思うと、悲しくて苦しかった。


きっと・・・いつもの冗談なんだ。

気にしちゃ駄目だ。何でもないんだから。

期待して。言葉にしたら、もうそばにはいられないかもしれない。

今のように、いられないかもしれない。

心の中でそっと喜んだり、そばにいて幸せだって思ったり。


今は、それだけで・・・いいんだから・・・。











「・・・冗談が過ぎる、ね・・・」


ヒトミの出て行った保健室で、若月はポツリと呟いた。

ギィ・・・と椅子を動かせば、キャスターの先に何かがコツンと当たる。

落としたままだった淡い赤色の口紅。

拾い上げ、手のひらで転がしながら・・・ヒトミのぬくもりを思い出す。


ついさっきまであったはずの存在が、そばに無いのが物足りない。

柔らかな唇をもっと味わっていたかったと本気で思う。

あの真っ赤な可愛い顔を、他の男が見てるんじゃないかと思うと、酷く頭にくる。


そんな感情を、あいつはきっと知らないだろう。


だけど・・・


「・・・冗談で済まなくさせたのは、お前だろ・・・?」





口の端を吊り上げて、そう呟くと。

若月は口紅をポケットにしまいこみ、立ち上がった。








真っ赤な泣きそうな顔で廊下を歩いてるヒトミに、他の男が気づく前に。

あの誘うような可愛い顔を他の男が見る前に。

腕の中へと、取り戻すために・・・・・・。








それはまるで、ガキのような独占欲。


俺様が寛大な大人でいられるのも。


お前が何も知らないガキでいられるのも。


もうあと、ほんの少しだけ−−−−。










あとがき


やっぱり私は中途半端な関係が好きなもようです・・・。恋愛EDも好きですけど、グッドEDにも萌えますっ!


ゲーム中の先生はそんなに俺様でもなくて、本当は優しい人なんですが、あんまり優しさが書けなかった・・・。

俺様俺様って書いてると、どんどん俺様になっていくような気がするんですよね・・・。


もう少し色々と整理して書きたかったような気がするし、次は頑張ろうかと思います。