「それじゃあ、ウォーキングに行ってくるね」


日曜日の午後。ヒトミは、そう言って軽く手を振りながらリビングを出て行こうとしていた。

晴天な空。季節は秋。近所のほのぼのパークへとウォーキングをしに行くには、いい日和。

けれど、彼女の兄、鷹士は出て行こうとするヒトミに慌てて駆け寄ってきた。


「今日は午前中に腕立てをしていただろう?身体は大丈夫なのか?無理してないか?ちゃんと休みもとらなきゃ駄目なんだぞ?」


畳み掛けるように言って、心配顔でヒトミの顔を覗き込む。


「大丈夫だって!ちゃんと休んでるし、無理もしてないよ?」


「・・・だ・・・だけど・・・な・・・」


苦笑いをしながら、にこやかに笑うヒトミに鷹士の表情が微かに曇った。

自分でも、どんなに抑えようと思っていても、浮かんでしまう想いがあった。


可愛い妹。鷹士にとって、何よりも大切な存在。

無理をしてほしくない。ヒトミが大切だから。心配なんだ・・・。


だけど、近頃思ってしまう。


どんどん痩せていく妹。100キロあった体重は、今はもう50台にまで落ちていた。

二ヶ月ほど前に買い換えたばかりのウェアーさえも、もうすっかりダボダボで、その身体の本来の華奢さをより一層際立たせて。

綺麗に輝きだした髪や肌。

今も昔も。昔も今も。どんなときでも、細い身体や輝いた髪や肌が無くても、この世の中で一番可愛い妹。


ダイエットをし始めたことで、元から可愛いヒトミの可愛さを他の奴らが意識しだしてしまったら・・・?


冷たくされて、見返すためにダイエットを決意したヒトミを応援しているはずなのに。

鷹士の想いは、少しずつ・・・歪んでいく。





「お兄ちゃん?」


黙り込んでしまった鷹士をヒトミは不思議そうに見上げた。

息を詰まらせながら。言いにくそうに。けれど、言いたげに。鷹士は小さく呟く。


「・・・ダイ、エットは・・・もう、そのぐらいで・・・い、いいんじゃない・・・か・・・?」


もう、それ以上・・・。


「え?」


「も、もう・・・十分、痩せただろう・・・?今ぐらいが・・・丁度いい体型だと・・・兄ちゃんは、思う・・・」


今以上痩せてしまったら・・・他の奴らが気づいてしまうかもしれない。


ヒトミが・・・離れて・・・しまうかもしれない・・・。

それは鷹士にとって、なによりも怖いことだった。この世で一番、恐ろしい恐怖だ。

暗く影を落とす鷹士の表情にヒトミは戸惑って。けれど、何かを決意している彼女は言った。


「うん・・・。でも、ね・・・?あと、少しだけ・・・もう少しだけ、どうしても痩せたいんだ・・・」


小さな声。けれどその中にある強い想いを鷹士が無視できるはずはなくて。

困ったようなヒトミの表情に冷静な現実へと意識が戻っていった。


(なに、してるんだ・・・俺は・・・)


硬く強張っていた身体を戻すように深く息を吐いて。鷹士は少しの後、小さな苦笑いを浮かべた。


「そっか・・・。でも、な?無理はするんじゃないぞ?ちゃーんとっ!休みもとって、ご飯も食べてっ、頑張るんだ!」


わかったか?と、いつものように笑う鷹士にヒトミもホッとして、つられるように元気に笑って頷いた。











可愛い笑顔に、鷹士の表情も優しさで溢れていく。

ヒトミの笑顔が、何よりも大切だから・・・・・・。

歪んでいく気持ちを今はまだ心の奥底に押さえ込んで。





・・・でも、やっぱり気になってしまうのは、しょうがないこと。





「あ〜・・・・・・」


「・・・ん?どしたの、お兄ちゃん?」


「その、あとちょっと・・・っていうのは・・・ま、まさか誰かのため・・・とかじゃあ・・・?」


「え?あー・・・うん。そう、なるのかな・・・?」


「−−−−な、なにぃぃぃぃ〜〜〜っ!!だ、だだだっ誰なんだっそっその男はっ!?!?」


ま、まさかマンションの奴らの誰かなのかっ!!もうすでにそういう展開になってるのかっ!!


「に、兄ちゃんの知らないところでっ!!何があったんだ!ヒトミっ!!」


「お、お兄ちゃん、落ち着いて!」


突然の如く叫びだした鷹士に、ヒトミはびっくりしながらも慌てて宥める。


「落ち着いてなんかいられないだろうっ!!どういうことなんだっ!?誰なんだっいったいっ!!」


「いや、誰って・・・」


「お兄ちゃんには言えないような相手なのかっ!?」


「言えないもなにも・・・お・・・お兄ちゃん、なんだけど・・・」


「兄ちゃん、そんなのはっ!!・・・・・・・・って、・・・・・・・・・は?」


思いもしなかった答えに鷹士は、思わず固まった。


「だから、お兄ちゃんのため・・・っていうと、変なんだけど・・・。う〜ん・・・」


信じられないというような顔で固まっている鷹士にたいし、ヒトミは難しい顔で首を傾げた。


「自分のためなんだけど・・・ん〜でも・・・お兄ちゃんにちゃんと見せなきゃって思うし、見せたいし・・・ん〜〜」


ブツブツとイマイチ訳のわからないことを呟いているヒトミに、鷹士は恐る恐る聞いてみた。


自分の名が挙がった時点で、それはもうウズウズと疼く想いがあるけれど。


ここは慎重に・・・。


「ど・・・どういうことなんだ?」


「・・・う、うんと、あの、ね・・・?・・・じ、実は・・・」


鷹士に問われ、ヒトミは何を思ったのか、俯き加減に気まずそうに訳を話し出した。


「・・・この前、お兄ちゃんに服、買ってもらったでしょ?」


「あ、ああ・・・」


「そ、その時にね。ちょっと・・・今より小さいサイズ、買っちゃって」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「あと少し痩せれば、着れると思うんだ・・・・・・」


(・・・って・・・な、なんか・・・すっごい恥ずかしいこと言ってないっ!?私っ!!)


と、自分で言ってて、どんどん恥ずかしくなってきたヒトミの顔はぼわんと赤く染まっていった。





その様があまりに可愛くて。


その可愛い妹が口にする訳が、これまたとんでもなく可愛くて。


ウズウズと。気持ちが、湧いてくる。膨らんでくる。


破裂しそうなほどに、嬉しさでいっぱいになってくる。


ヒシッと腕の中に抱き込んでしまいたい衝動をなんとか抑えこんでも。


鷹士の顔には、これでもかというくらいの幸せそうな笑顔が浮かんでいた。







ああ、やっぱり。


ヒトミがこの世の中で、一番可愛いと、お兄ちゃんは思うぞ。









あとがき


えっと、初ラブレボ小説です。なんか最後が上手くまとまったような、まとまってないような・・・?

ちなみに、「お兄ちゃんに服を買ってもらった」というのは、線香花火の勝負に勝った時の話です。

と、いうことは・・・このお話の未来にあるのは、恋愛EDではなく、シスコンEDですね。

(というか、ゲームの中では一度シスコンEDを見てからじゃないと、線香花火に負けても恋愛EDにはいけないから、
やっぱりシスコンED行き)


個人的には、恋愛EDよりもシスコンEDの方がどっちかというと好きです。


どっちにしても二人が一生二人でいることに変わりはない気がするので、まだ、もう少し行過ぎたシスコン兄でいてほしいかな。


一人切なそうに心の奥底で葛藤しているお兄ちゃんが好きっていうのもあるんですけど。(苦笑)


恋愛EDはどんなに幸せそうでも、やっぱり禁断ゆえのこれからの切なさが醸し出されてるような気がするので、
それはちょっと痛いなぁ・・・と思ってしまうのです。