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※注意 性描写あり。



「う・・・ンッ・・・」

ゾクゾクと震え上がる背筋に床に落とされた白衣を握り締めて耐える。

少しでも逃れようとうつ伏せの体勢でいる都倉の下肢へと指を絡めながら、俊介は気を悪くしたように都倉の手から白衣を剥ぎ取り、抱き寄せた。

しがみ付きたいなら、自分にしがみ付いていろと。

傲慢さを滲ませた仕草で耳朶に噛み付き、手の中のものをきつく扱きあげる。

「はっ・・・あ、ッ・・・やめっ・・・」

グチュリ、と濡れた音を響かせて、震える下肢に背中や唇をゾクリと戦慄かせる。

堪えていた声が唇の端から零れ落ちる度に、目を細め笑みを浮かべ、キスを繰り返された。

乱暴なのか優しいのか、よくわからない仕草に自分でも気づかぬうちに困惑している都倉だったが、

でも解放だけは出来ないと、手の動きに逆らい、声を抑え、唇を噛み締め続けていた。


このまま、彼の手の中で果ててしまったら、自分はまた何もかも失ってしまう気がして。

身動きすら取れないくらいの暗闇に首を振った。

おそらくそれが、彼の望みなのだろう。

それを感じて恐ろしくなる。

こんなところまできて今更どうにもならないことも、諦めた方が楽だというとこも十分わかっている。

それでも絶望しかない闇には飛び込みたくなかった。


やっと、見つけたものを。

家族を。失いたくはなかった。


溢れ出る蜜を指先で掻き混ぜられ、ガクガクと痙攣する足をなぞり上げられる。

つう、と涙が零れ落ちても、唇から力が抜けることはなかった。


「強情だな。君は。」

どんなに瞳を涙で滲ませて、口の端や敏感な下肢を濡らしていても。

頑なにイクことを拒む様子に思わず息を吐く。

手から解放して床に寝かせれば、身体を小さくさせて今からでも必死で熱を押さえ込もうとする。

けれどどんなに都倉が我慢できたとしても、ゾクゾクと身を震わせて熱い吐息を零す姿に俊介は欲情し喉を鳴らすのを抑えることはできず、

「ヒッ・・・あっ・・・なっにを・・・っ!」

ぐいっと、閉じていた足をおもむろに開かれ、あらぬところへと伸ばされた手に思わず声が上がった。

ズクリと内部へと入りこんでくる痛みに顔を歪め、信じられないという思いで瞳を彷徨わせる。

「やっやめ・・・っ」

今までにない、縋るような叫びに余計に熱を煽られる。

指を締め付ける内側から都倉の熱も鼓動も、全てのものが感じられて。

焼けるような疼きに乾いた唇を軽く舐めると、それまでその場所を犯していた指を引き抜き、震える足に指を食い込ませて握り締めた。

痛みの広がる入り口に硬く熱いものを押し当てられ、都倉は驚愕に目を見開いた。

「ほ・・・んき、ですか・・・っ」

恐怖で全身が強張り、最後の抵抗とばかりに零れ落ちたはずの声は怯えたように震え上がる。


「冗談でこんなことできるわけがないだろう・・・」


欲情を露にした声が耳に低く響いた瞬間、身を引き裂かれるような痛みが都倉を襲った。




「ウアッッ・・・痛・・・や・・・」

彼のものを打ち付けられる度に、掠れた悲鳴が静まり返った医局に微かに響く。

前後に動く度に中を擦られ、痛みや吐き気が襲ってくる。

「やめっ・・・や・・・ああっ」

俊介にも締め付ける苦しみがあるはずだが、容赦なく腰を進められ最奥まで深く犯される。

自身の快楽だけを追い求めるような性急な動きに激しさは増し、どのくらいの時間がたったのか、熱いものが都倉の中へと流れ込んだ。


これで終わると、頭の片隅で苦痛に塗れていた思考がぼんやりと思う。


けれど意識を手放そうとすると再び奥深くへと突き上げられ、都倉は終わりのない闇を見た気がした。





「・・・うっ・・・んっ・・・いや・・・」

どうして・・・。

深く銜え込まされたまま腰を揺すられ、背筋に走る痛みだけじゃない感覚に零れ落ちそうな声を咄嗟に手で押さえ込んだ。

両足を抱えられ擦り上げられる度に、ゾクゾクとした疼きが全身を熱く駆け巡る。

「・・・イイのか?」

よりいっそう身体を密着させて口元を覆う手に唇を寄せて囁けば、それだけで組み敷いた身体はゾクンと震えて涙を滲ませて熱い吐息を零す。

「ちがっ・・・っ・・・ん」

赤く上気した目元や涙の溢れた瞳を眺め、突っ撥ねようとする腕を押さえながら胸に沸く想いに感慨に目を細めた。


「あ・・・っ、もう、やめ・・・っ」


「・・・呼んでみろ。都倉先生。」


耳朶を甘噛みし、輪郭へと舌を這わせ舐め上げる。



『俊介さん・・・』



その、甘く濡れた声で。


あの時のように、ぎこちなくて躊躇うような声で。


「ぁっ・・・あ、あっ・・・」


「隆・・・」


涙の滲んだ濡れた瞳を切なげに細め、震える手が目の前の俊介へと縋りつく。



もう・・・、


そう、甘く切ない声を上げて微かに響いたその音に。


俊介は腕の中へと強く抱き寄せながら、

その音も、その声も、全て自分のものだというように深く唇を重ね合わせた。



『俊介、さん・・・。』





***





次の日。

仮眠室で目を覚ました都倉は、全身を襲う重さとだるさに夢じゃなかったことを理解してベッドに沈み込んだ。

もし夢だったとしても。あんな夢を見てしまっては、どのみちここにはいられないだろうけれど。

重苦しい溜息を吐き掛けて、ハッと気づいたように上体を起き上がらせる。

下半身に走る痛みに顔を歪めながらも起き上がろうとして、ちょうど仮眠室のドアが開かれた。

「・・・起きたか。」

どこかほっとしたような表情を浮かべて入ってきたのは、こんなところで寝ている原因を作った張本人の俊介だった。

都倉は顔を俯けると、途端に後ずさりそうになる腰を押さえ込む。

その反応に一瞬表情を緊張させながらも、俊介はベッドに近づくと都倉の顎を掴み持ち上げた。

「疲れが出て、休んでるってことにしてある。」

医局も、片付けておいたから心配するな。と、耳元で囁かれ、カッと羞恥に頬が熱を帯びた。

唇に口付けたい衝動を抑え、ほんの少しずらした位置に軽く掠める程度のキスをする。

ピクリとした震えに笑みを零しかけた瞬間、いつも以上に沈んだ声が聞こえた。

「・・・病院がもう少し安定するまでは、いさせて下さい。」

「ん・・・?」

「軌道に乗れば、すぐにでも出て行きます。」

俯かせていた視線を真っ直ぐと上向かせ、必ず約束します。というように告げられる。


「誰が、やめろなんていった」

おふざけのようなキスをしておきながら、鋭い視線や激しい怒りを浴びせられるだろうと思っていた俊介は、少し呆気に取られたような顔で言い返した。

そうして怪訝に眉を顰める都倉の表情に、内心で溜息を吐く。

あんなことをしておいてなんだが。

怒らせるつもりはないといった。泣かせてみたくなったと。

でもそれは、都倉から言わせれば、ただ屈辱を味合わせてやりたいとか思われているんだという意味にしか取れなくて。

その言葉どおり、泣き、抱かれた自分を嘲笑っているんだろうと思っていたのだ。

そうなれば、自分が出て行くだろうと。そう仕向けたのだろうと、思っていた。


「・・・冗談でこんなことできるかと、いっただろう?」

俊介の苦い呟きにも、それだけ憎まれているのだろうと。

そう、影のある瞳で言われ、俊介は今度こそ溜息を吐き出すと怪訝なままの彼を抱き寄せた。


「俺は、君を手離すつもりはない。」


こういえば、わかるだろうか。


そう言って表情を覗き込めば、都倉はしばし怪訝な表情をした後で、

「そう、ですか。」と曖昧な様子で呟くだけだった。


やはりあんなことをしておいてなんなのだが・・・。

本当に、わかっているのだろうか・・・。



噛み合いそうもない二人の気持ちを表すように。

ぎこちない沈黙が二人の周りを包み込んでいた。





終。