「にゃんこでGO!」番外 「reach for 」の竜クミだったら?





「・・・にゃー・・・・・・」


力無くうなだれて、彼女は切なくも甘い可愛い声を上げた。


微かに耳に届く声に・・・竜の鼓動が跳ね上がる。


彼のためにも誤解のないようにいっておくが、けしてマニアックな趣味があるわけではない。


ピクリと動く耳を想像したり。ユラユラと揺れる尻尾を想像したり。


けっして、そのようなことを想像しているのではない。


ただ・・・普通に可愛すぎるのだ。


その声も仕草も表情も。


頻繁に耳にしている口調ではあるけれど。


他の人間が言うのと彼女が言うのとでは、なぜこうも違って聞こえるのだろうか?


竜は悩んでいた。


手を伸ばしたい。その艶やかな髪を梳いてやりたい。


不安を抱えてる彼女を大丈夫だと頭を撫でてあげたい。


抱きしめたい。


彼女のために思うことは沢山ある。


けれど竜は正直それどころではなかった。





理性の壁は、崩壊寸前。





手を伸ばしたら最後。


彼女のためではなく、きっと自分のために抱きしめてしまう。


やってることは一緒でも。違いがあるんだかないんだかわからなくても。


本人の気持ち的には、大きく違うのだ。








だから・・・。





「・・・にゃー・・・・・・」


そんな切なくて甘い声で。可愛い口調で。


「・・・にゃーにゃー・・・」


服引っ張ったり。


「・・・おにゃぎり・・・?」


寂しそうな顔で首傾げながら名前など呼んだり。


しないでほしい・・・・・・。





(・・・こいつの可愛さ自体、普通じゃねー・・・)





まもなく・・・壁、崩壊。

















ことの始まりは本当に突然のことだった。


とある休日。15時頃。なんとなく暇で訪れたコンビニで、偶然ばったり出くわしたのが久美子だった。


偶然ばったり出逢える日なら、なんでもっと早くに出逢わないんだ。


少し不満を感じつつも。それは欲張りになってる証拠。


一瞬で頭の中から追い出して、出逢えた嬉しさに表情がやわらいだ。





「小田切じゃないかっ!」


竜が店に入ってすぐ、お互いの姿を見つけた。


久美子が竜の名前を驚いた様子で、でもどこか嬉しそうな声で呼ぶ。


鼓動がドクンッと大きく鳴った。


久美子が竜へと歩き出す。


と、次の瞬間。





−−−−ズルッ。ゴッ。





足元に落ちていたレシートで久美子が滑った。一瞬のことで手を伸ばすのも間に合わない。


前のめりになったが、幸い、顔から突っ込むことはなかった。


その代わり、打ちつけた膝はかなり痛いだろう。


竜が一歩踏んで、久美子が立ち上がろうとしたその時。





異変は起こった。





「−−−−にゃっ・・・・・・・」





(・・・・・・にゃっ?)





竜を含む数人の客と店員の脳裏で一斉に繰り返された一言。「にゃっ」。


そして集まる視線。


久美子は膝を手で押さえたまま、俯いていた。


(・・・なに?いまの・・・)


自分の口から出た一言が信じられない。


「イッ」って言った・・・はず・・・。


俯いたままの久美子の背中に嫌な汗が流れた。


恐る恐る・・・ゆっくりと口を開いて。


喉の奥から。慎重に声を出してみる。


(・・・あーーー・・・)


「・・・にゃーーー・・・・・・っ?!?!」





3秒後。


店内にいまだ微かな可愛い声の余韻を残して、久美子は竜の腕を引っ掴んで猛スピードで


店を後にするのだった。




















「どっどどっどどうするにゃっ!にゃっまたいったにゃっ!!にゃっちっちがうにゃっ!!にゃーっ!!」


近くの公園まで走った久美子は人気がないのを確認すると、どこかが切れたようにパニクッた。


真っ青な顔で目には薄っすらと涙を浮かべて。


「どうしたんだ?いきなり・・・」


日向達がちょくちょく使って聞きなれてるため竜はそれほど驚きはしなかったが、怪訝に眉を寄せる。


「わっわかんないにゃっ!わわわたしはちゃんといってるにゃっ!いってるのにゃっ!

 なのに勝手ににゃってにゃってにゃってるにゃっ!!」


言えば言うほど、久美子の「にゃっ」は酷くなっていく。


「にゃっじゃないにゃっにゃだからにゃっにゃにゃっにゃーーーーーっ!!」


「−−−っ!?」


完全にわけわからなくなってしまった久美子は、竜の胸へと飛び込んだ。


ぎゅうっとしがみついて胸元で泣き出してしまった久美子に竜の胸がドキドキと高鳴る。


微かに震えて。どこか怯えたようにしがみついてくる姿に、たまらない愛しさが膨らんでくる。


突然の出来事に早くも理性は半分削られた。


それに加えて、「にゃー・・・にゃー・・・・・・」


なぜかとっても心に響く甘い声。


聞きなれてたはずの言葉まで、可愛く思えてきてしまった。


(やばい・・・)


今はそんな状況じゃない。


残っている理性で必死に耐えた。














「・・・にゃー・・・・・・」


落ち着いた久美子と耐え続ける竜はベンチへと座った。


頼むからこれ以上削るな、というように、竜はなるべくベンチの端に座って距離をあけた。


後ろめたい感情が働いてか、少し身体が久美子とは反対側に向いている。


落ち着けるように息を吐いて、無表情をなんとか作って。


動揺を悟られまいと平常心を装う。


竜からすれば。壊れそうな理性を保つため。久美子のことを思っての行動だけど。


久美子からすれば、違った感じになってしまう。


パニックになって。もうなにがなんだかわからなくて。


幾らか落ち着いたとはいえ、不安とか戸惑いは膨らむばかりで・・・。


抱きついてしまったことは凄く恥ずかしいけど。しがみついていたぬくもりが離れてしまって・・・。


二人の距離もどこか遠い気がして・・・。


なんだかとても・・・悲しい・・・。


それに・・・全然こっち見てくれないし。溜息ついて・・・呆れてる・・・?


「・・・にゃー・・・」


悲しくなって。すごく心が切なくなって。


久美子は竜の腕に手を伸ばした。


そっと掴んで、軽く引っ張ってみる。


「・・・にゃーにゃー・・・」


(こっち・・・)


距離を縮めて見えた横顔は、少し不機嫌そうで・・・。


「・・・おにゃぎり・・・?」


その理由がわからなくて、ますますシュンとしてしまう。


「・・・にゃー・・・」


なんかまた泣きそうになってきて・・・思わず掴んでいた手に力を込めた。


もうこれだけでもいいから。そう思って、ギュッとした数秒後。


「にゃっ?」


久美子は抱きしめられていた。








理性の壁が崩壊した竜は・・・力を込めて、久美子を抱きしめる。


優しくしたいけど、壊れてしまっては余裕が持てない。


肩に顔を埋めて・・・強く抱きしめた。





「・・・にゃー・・・」


心に響く甘い声が小さく届いて・・・。


その甘い声に誘われるように・・・久美子の唇へと、キスをした。











キスのおかげかどうなのか。


久美子はその後、元に戻ることができたそうだ。











ちなみに余談ではあるが、久美子が滑ったレシートには、「猫缶」の品名が並んでいたらしい・・・。











あとがき


な、なんか竜が変な気がします・・・。

もうこれは「ごくせん」のキャラ名を借りた、全く違ったお話って感じですよね・・・。

隼クミも竜クミも、将来のことまでハッキリと頭で描いてしまってるので、それ前提で書いてると

総受けとか学園ドラマ系からますます遠ざかってしまいます。

それぞれのストーリーで隼人や竜などが出てこないのは、それが理由です。

総受けが好きだからこそ・・・二人の未来を考えてる私には、他の彼を出した時点でその人は失恋ってこと

になってしまうので、それはあまり書きたくないので極力出さないようにしています。

シリーズ物は、本当に隼クミ、竜クミが好きな人じゃないとつまらないかもしれませんね・・・・・・。

「一生で一度、最初で最後の本気と運命の恋と愛」を目指してますからっ!!(詰め込みすぎ・・・)