18.あなたという人が、自分だけのものになればいいのに








久美子の頭の中は、色々なことで一杯だった。


心の中も、沢山のもので一杯だった。


俺の頭の中は、久美子のことばかりなのに。


心の中も、隅から隅まで久美子の存在ばかりなのに。





どうしたら・・・愛しい人の全てを。


自分のものに、できるんだろうか・・・・・・?














出会って数ヶ月。もうすぐ教師と生徒の関係も終わろうとしていた冬の日。


慎はテーブルを挟んで座る久美子を、じっと見つめながら考えた。


寒い中。久美子が突然、部屋に押しかけてくるのを面倒くさい顔をしながらも
心の中は嬉しく感じてた。


ニッコリと、楽しそうに笑う久美子と夕飯を食べられることが。


少しでも学校以外で一緒に過ごせることが、今の慎にとっては何よりも幸せなことだった。



けれどその幸せは久美子の言葉や行動で痛いものにも変ってしまう。


幸せな時を、削り取られてしまう。


慎の頭の中も、心の中も、久美子でいっぱいだから。


だけど久美子は違った。








初めの頃に比べたら、だいぶまともなできになってきた久美子の料理を
二人きりで食べていたって。


久美子の話すことは他の奴らのことばかり。


「ここんところ、みんな大した問題もなくて私も嬉しいよ。
平和に明るく、そんでもって楽しく暮らすのがやっぱ一番だしなっ!」


優しくて幸せな笑顔浮かべられたって、他の奴らのことだったら嬉しくない。


(今は学校のことなんて、言うなよ・・・。)


「あっ!おいっ沢田っ!志麻ねえさんだぞっ!!」


テレビのCMに映った岩下志麻を目をキラキラさせて見つめるのすら、気にくわない。


(テレビじゃなくて、俺を見ろよ。)


「はぁ〜・・・今日もかっこよかったな〜、篠原さんっ」


しまいにはあらぬ方向を向いて、うっとりと憧れの男を思い浮かべる始末。




篠原の話が出ると、慎はもう我慢できない。


思いっきり不機嫌な顔で料理をさっさと食べ終えて、久美子を無視するように雑誌を広げてしまう。


無視しようとしたって、心の中は無視なんてできっこないのを嫌というほど知っているけど。


見つめているのが耐えられない。


見つめていたら、きっと苛立ちのままに久美子を無理やり追い出してしまいそうだから。


どんなに苛立ったって。それだけはしたくない。


少しでも、一緒にいたいから。


それに数分もしないうちに、また自分に意識を向けてくれることを知っているから。





そんな風に久美子の頭の中も心の中も、色んなものでいっぱいだった。


なんにでも好奇心旺盛で。誰にでもお節介で。


そんなところも好きだけど。


だけど自分だけを見ていて欲しいと思ってしまう。


久美子にしてみたら、子供のような我が儘かもしれないけど。


慎にとっては、好きになるにつれて。一緒にいるときが長くなるにつれて。




ただの我が儘では済まされなくなってくる。




一緒にいるだけでは、満足できなくなってくる。




頭の中も。心の中も。身も心も。




全てのものを手に入れてしまいたい・・・・・・・。




我が儘は、狂気のような欲望に変って。


きっとそのうち押さえ切れなくなる。





そんな恐ろしい感情を自分で理解して、慎は考えた。


(せめて卒業するまでは耐えねーとな・・・)


必死で押さえて。絶え続けて。


なのに久美子は相変わらずノンキすぎて。





慎はこの日。ついに強気にでることにした。





「お前、この部屋にいるときは眼鏡取れ。髪もおろせ。」


「え?なんでだ?」


「家にいるときは眼鏡してないんだろ?ここは学校じゃねーんだから、必要ねーじゃん」


「ま、まあ・・・そう、だな」


「あと今日からテレビ禁止だから」


「えぇっ?!な、なんでっ?!」


「節約」


「そうかっ!お前も両親のことを考えるようになったんだなっ!えらいぞっ沢田っ!!」


(・・・・・・べつに考えてねーけど。)


「・・・あと最後にもう一つ。」


「まだあんのか?なんだ・・・?」


「あの刑事の話も禁止。言ったらエアコンも切って、窓全開にすっから」


「え゛・・・。そ、それは・・・寒いな・・・。・・・でも、なんでだ?」


「・・・・・・なんでも。」


「ん〜・・・・・・・・・わ、わかった。」


(・・・・・・単純な奴・・・)


心の中でそう呟いたけれど。




よかったし、嬉しかった。


あれだけ言っても、久美子が来てくれることが。


テレビもなくて、一つ誤れば、ものすごい寒さに襲われてしまうこんな部屋でも。


それでも久美子が頷いてくれたのは、自分がいるからだと。


期待に胸が、熱くなった。





今はまだ全てを手に入れられないことを知っているから。




だからせめて、そばにいたい。そばにいてほしい。




少しでも多く、長く。自分だけを見て。自分だけを想ってほしい。




全てを手に入れられる日を願いながら。


慎はずっと・・・久美子だけを、見つめ続ける。








そして慎が久美子自身も気づかなかった気持ちに気づくのは


それからもう少しあとのことだった。







寒い中、久美子がマンションに訪れるのは。




会いたかったから。





色んなことを笑顔で話してしまうのは。




そばにいるのが嬉しいから。




幸せだから。





時には憧れの人を想ってしまうときもあるけれど。





久美子の頭の中と心の中には、どんなときにも・・・慎はいた。




ほかの誰とも違う、慎への暖かい気持ちも・・・。





確かに・・・そこには、あったのだ。











あとがき


久しぶりのシンクミですね。慎は相変わらず強引で横暴な男だな・・・。


2が絶好調な中、シンクミUPはどうだろうかと少し悩みましたが
拍手メッセージで、シンクミも書いてほしいって送ってくれた方がいらっしゃったので。


メッセージ下さった方、ありがとうございました!


それにしても、また話が進むにつれて訳わかんない作品になっていってるような気が・・・。

てゆーか主旨が色々飛んでる・・・?