01.ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間 今でも確かに覚えてる。 それはきっと、永遠に言葉にできない、大切な・・・とても大切な、あなたへの秘密。 「・・・お嬢・・・」 しんっと静まり返った深夜1時。トイレに行こうとした時、偶然目にしたお嬢の姿。 居間のテーブルに突っ伏したまま眠るお嬢の姿に、思わず息を呑み込んだ。 静まり返った辺りを不自然に見渡して、音を立てないように、恐る恐る近づいて。 一瞬戸惑いながらも・・・その寝顔をそっと覗いた。 疚しい気持ちなんてない。下心なんて、もってない。 大切な人で、尊敬している人で。好きだけど、それ以上に大切なものが俺にはある。 だけどそんなのは、当然な言い訳と嘘で・・・。 そばにいるほど・・・好きな気持ちは溢れるばかりで。 近くにいるほど・・・それ以上近づけないことに、胸が痛んだ。 「お嬢」にしがみついて、それ以外見ないようにしてきても、心の中は醜くて。 触れたい。その髪にも、その頬にも、その身にも・・・。 あなたの笑顔が欲しくて。あなたの特別になりたくて。あなたの気持ちが・・・たまらなく欲しい。 誰もいない静かな空間。あなたと俺の・・・二人だけの今、この瞬間だけでもいい。 ほんの少し、触れてもいいですか? ほんの少し、抱きしめてもいいですか? そっと髪に触れて、そっと頬に触れて・・・。夢の中のあなたは知らない、隠せない想い。 抱き上げて・・・。あなたの知らない、俺だけのこの瞬間。 いまだ眠り続けるあなたをベッドまで運んで、その身をそっと横たえて・・・。 スヤスヤと眠るあなたには・・・。お嬢には、けっして言えない秘密の出来事。 部屋のドアを閉めて、廊下で硬く拳を握った。 明日からまた、いつもの空間。いつもの距離。 お嬢が笑ってくれるように。喜んでくれるように。俺は、料理を作る。 そして・・・。朝起きて、いつのまにか部屋で寝てたことを不思議がるお嬢に。 「きっと寝ぼけたまま部屋に戻ったんですよ。」 俺は、明るく嘘をついた。 ただ・・・偶然に起きた深夜の出来事。 あなたの寝顔、あなたの髪、あなたの頬、あなたのぬくもり。 あなたには・・・永遠に言えない。 大切な、瞬間。大切な、秘密・・・・・・。 あとがき えっと、やっぱりテツクミ好きだな〜っと思い知った小説になりました。 きっと抵抗あって読んでくれる人もあんまりいないかもしれないけど、 それでも私の中ではかなり好きなお話となりました。 素敵なお題に感謝します。 本当に、自分で書いてなんですが、書けてとっても幸せでした。 |