10.この笑顔でいつまできみをはぐらかせるのでしょうか 笑顔。 切ない笑顔。 笑顔と呼べるほど・・・笑顔になっているかわからないけど。 俺はいつでも・・・笑顔でいよう・・・。 「テツ、おはよっ!」 朝、久美子は珍しく目覚ましよりも早く起きていた。 「お、お嬢っ!お、おはようございますっ!今日は早いっすね」 台所で朝食の仕度をしていたテツは、思いもしなかった声に驚いて振り向く。 「なんか目が覚めちゃったんだよ。テツは朝食作りか?」 「へい。今日は、豆腐と油揚げの味噌汁に焼き鮭なんすよ」 焼きあがったばかりの鮭がのった皿を久美子に見せながら微笑んだ。 「おっ!うまそうじゃないかっ!なにか手伝うことはあるか?」 「大丈夫ですっ!お嬢は先に居間のほうへ」 「そうか?いつも悪いな」 「い、いいえ・・・」 にっこりと、朝から久美子の笑顔を見れたテツは、片手を頭に当ててテレた笑みを浮かべながら 居間へ向かう久美子の背中を見送った。 幸せな、日だと思った。 その日の夜。 久美子は居間で料理の本を広げているテツを見つけた。 「なにしてんだ?テツ・・・」 「え?あっ・・・お、お嬢っ!」 久美子の姿に目を見開いて、チラリと居間を見渡すと自分と久美子だけだということに気がつく。 今日はよく二人きりであう。 テツはまた、テレたように微笑んだ。 向かいに座った久美子は、テツが見ていた本に視線を向ける。 「・・・ん?これ、洋食の本か?」 「へい。たまにはこういうのもどうかと思って・・・見てるんすけど。」 「へぇ〜。それじゃあ、また料理の腕が上がるなっ!」 「そ、そんな・・・あ、あの・・・お嬢は何か食べたいものとかは・・・」 「私?私は・・・・・・・・・・・」 パラパラ・・・と、めくっていた久美子の手がふいに止まった。 開いて止まったページから戻るように、今度は一ページずつめくり始める。 何かを探しているような様子に、テツは不思議そうに久美子が開いていくページを一緒に追った。 ラザニア・・・ドリア・・・・・・・・。 グラタンのページで久美子の手は止まった。 「・・・グラタン・・・ですか?」 「うん・・・・・・」 テツの声にも相槌だけでかえして、久美子は真剣な表情でグラタンのページを見ていた。 やがて・・・。関心したような溜息をついた久美子が言った言葉に、テツの笑顔が硬くなる。 「グラタンって結構手間のかかる料理だったんだな。前に沢田に作ってやったことがあるんだけど」 思い出すように、久美子の綺麗な瞳が細められて・・・。 「真っ黒焦げにしちゃったんだよな・・・。」 優しく・・・微笑む久美子に。 テツの胸がズキッと音をたてた。 今はいない。遠い国にいった元生徒を、時々久美子は優しい顔で思い出す。 大人相手に真っ直ぐに、ライバル宣言してみせた彼は・・・いろんな想いで海外へといったのだろう。 日本を離れることを久美子から聞いた日。 テツは、ほんの少し・・・彼を羨ましく思ったのを覚えてる。 寂しそうなお嬢の笑顔。 微かだけれど。久美子が彼を生徒以上に想っているのには、気がついていた。 それが恋にまで行くかはわからないけれど。 だけど彼は・・・確かに久美子の特別な位置にいた。 生徒以上の想い。 篠原や九条への憧れの気持ち。 テツは・・・そのどちらの気持ちも抱いてもらえない自分に、苦しくなった。 家族以上の想いだって・・・きっと今の俺には、想いもしないんだろう。 照れた笑顔が。嬉しい笑顔が・・・。 苦しいものに変わっていく・・・。 貼り付いただけの・・・硬い笑顔に変わっていく。 「テツ、で、どれにするんだ?・・・テツ?」 久美子の声に、はっと我に返った。 「へ、へいっ・・・・・・あっ・・・お嬢っ・・・そろそろお風呂の時間なんじゃ・・・」 さりげなく、時計に目を向けながら、久美子のそばにある本を引き寄せる。 「え?ああ・・・そうだけど・・・。」 「あっしのことはいいですからっ・・・お風呂へ行ってくださいっ・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 久美子が居間を出ていった後、テツは小さく息をついた。 本に視線を向けて、薄い紙のそれに、いくつもの皺が寄っているのに気がついて。 テツは小さく、切なく・・・微笑んだ。 うまく笑えていただろうか? (・・・きっと苦笑いだったな・・・。) 気づいてほしくない。苦笑いは、久美子に心配をかけるだけだから。 でも本当は・・・気づいてほしい・・・。 少しでもいいから・・・・・・そのわけを・・・知ってほしい・・・。 知ったからって。きっと想いは、変わらないだろうけど。 だけどいつか・・・笑顔を作ることさえ・・・できなくなりそうだった。 幸せだと思った今日は、最後に切ない・・・笑顔で終わった。 こんな日は思う。いつまで、笑顔でいられるだろうかと・・・。 次の日は、祝日。学校は休み。 久美子は昼食を食べた後、どこかへ出かけていった。 テツが洗濯物をたたむ頃、久美子は帰ってきた。 手に・・・紙袋を持って。 「テーツーっ!」 「お嬢、お帰りなさい。」 洗濯物をたたむテツのそばに、久美子は腰を下ろした。 手に持っていた紙袋に手を入れながら。 「お前、お腹すいてないか?」 「は?・・・え、えと・・・少し・・・」 戸惑うテツの言葉に、久美子は嬉しそうな笑顔を浮かべた。 「今日、ちょっとクマんところいって来たんだけどな。」 紙袋から久美子が取り出したのは、タッパー。 「はぁ・・・?」 テツは、わけがわからずにただぼんやりとした。 「ついでにキッチン借りて、サンドイッチ作ってみたんだっ!食べないかっ?!」 ニッコリと微笑んで 久美子がタッパーのふたをあけたると野菜とハム挟んだサンドイッチが姿を現した。 久美子の言葉と目の前のサンドイッチに、テツの目が信じられないというように見開いた。 「・・・あの・・・あっし・・・に・・・ですか・・・?」 ドキドキ高鳴りはじめた鼓動に、声が震えそうで。 うまく言葉が出ない。 「当たり前だろ?なにいってんだ?」 クスクスと・・・笑った久美子に。 テツは顔が真っ赤に染まるのを感じながら。 それを隠すように、深深と頭を下げた。 「あ、あ、あありがとうございますっ!!!」 「ほらっ!ミノルが来る前に食べちゃわないとなっ!」 久美子が差し出してくれたサンドイッチを震えそうになる手で受け取ったテツは、 これでもかというくらい、幸せそうな顔で笑う。 その笑顔に、久美子もふわりと優しい笑顔を浮かべた。 昨日の最後は、切ない笑顔だったけれど。 今日の最後の笑顔は、幸せな笑顔だった。 久美子の笑顔に。 テツは昨日の切なさも忘れて・・・また、心に決める。 やっぱり俺は、笑顔でいようと。 時には切ない日もあるけれど。苦しい笑顔もあるけれど。 できなくなるときがきてしまうかもしれないけど。 切なさに・・・いつかお嬢が気がついてくれたときが来るかもしれないから。 その時に。 また笑顔でお嬢を見れるように。 お嬢が笑顔を忘れないのと同じように。 忘れないでいよう・・・。 笑顔で、いよう。 あとがき ・・・なんでテツクミはこんなに切ないんでしょうか? またお題にそってないし・・・。なんか意味わかりずらいし。 自分で書いていてもこんがらがっちゃって、もうラストはゴチャゴチャです・・・。 こんな小説ですが、メッセージやメールでテツクミを応援してくださった方へ捧げます!! とてもテツクミへのメッセージいただけて幸せでしたっ!! ありがとうございますっ!! |