出会えた二人。逢えた二人。


それは、きっと・・・。


とても、とても・・・難しいことだった。




手を伸ばすのも。触れるのも。


臆病な心が邪魔をした。


けれど動き出したら、もう。


躊躇うことは。


きっとない。









臆病な心は。


臆病な恋は・・・。


今、確かに・・・動き出していた。








臆病な恋 4








微かに触れたぬくもりに久美子は真っ赤な顔で固まった。


その可愛さに、竜がもう片方の手も頬へと触れようとした瞬間、久美子は座ったままの身体を
ものすごい速さでズザザーーっと後退し・・・・・・。



−−−−ゴンッ!?



頭をぶつけた。



「−−−−痛ったっ〜〜っ!?」


壁に頭を思いっきりぶつけて、あまりの痛さに後頭部を押さえる久美子に竜は素早く距離をつめる。


「・・・大丈夫かよ」


「うぅ・・・・・・・お、お前が、いきなりっ・・・・あっ・・・あんなことするからっ」


痛みが相当酷いのか、涙目になりながら恨めしそうに竜を睨む。


けれど口にしながら、やっと今の現状を思い出した久美子の顔は、また赤く染まっていった。


途端に顔を赤くして、恥ずかしそうに身を縮めて。


涙で輝くように揺れる瞳が、とても綺麗で。


竜の手は、久美子へと伸びる。


触れたくて。しょうがない・・・。


「あれぐらいでそこまで動揺すんなよ」


頬を両手で包んで、さらに身体と顔を近づけた。


手に触れる久美子の熱に、鼓動が大きく高鳴る。


「うっ・・・・・・べっ、べつにっ・・・動揺なんてしてない・・・」


久美子は、頬に触れる手を意識せずにはいられなくて、でもすぐそばにある身体を押し退ける
こともできなかった。


ドキドキと鳴り響いてる鼓動の意味もわからない。


頬にキスぐらい。竜のいうとおり、確かになんでもないはずなのに。


どうしてだか・・・とても恥ずかしい。


胸が・・・すごく、熱かった。


「い、いきなりで・・・少し驚いただけだ・・・・・っ・・・・」


そうだ。いきなりされれば、誰だって驚く。


自分にそう言い聞かせて、なんとか平常心を取り戻そうとする久美子に、


さらに竜は追い討ちをかける。


「じゃあ・・・いきなりじゃなければいいのか?」


「・・・・・・え?」


「キスしてーんだけど・・・」


「・・・・・・・・は?」


「たまらなくしたい・・・」


そう、囁いて。竜は呆然としている久美子から眼鏡を取ると、さらに顔を近づけた。


「ちょ、ちょっと待てっ!!」


触れそうになる瞬間、慌てて久美子が竜の額を押し返す。


「なんだよ・・・。」


「お、お前っ・・・い、いまっ・・・・・・・く、口にしようとしただろっ・・・」


「そうだけど?」


「そ、そうだけどってっ!?全然、そうだけど?じゃっ、ねーっ!」


「いったじゃねーか。キスしてーって」


「ほっ・・・頬と口とじゃ全然違うだろうがっ!!」


「なら、どうしたら口にキスさせてくれんの?」


「え゛・・・・・・?」


(・・・ど、どうしたら?)


そんなこと聞かれても困る。


頬にキスは、ご褒美とかありがとうっ!とか・・・だろ?


口・・・?・・・くち・・・は・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「好きな人とするもんだっ!」


なぜか誇らしげに言い切る久美子に、竜が素早く言葉を返す。


「じゃあ、問題ねーな。」


と、いって。


「え?・・・・・・・っ?!」


一瞬、ポカンッとなった久美子の唇へと、キスをした。




・・・・え?




微かに。触れた感触に・・・。


久美子の思考が一瞬止まる。


キスされた。そのことが信じられない。


「・・・・・・なっ・・・・なにしてんだっお前っ!?」


「だからキスだっていってんだろ。さっきから」


「そ、そんなこと聞いてんじゃねーっ!なんでかってことをっ・・・て、えっ、ちょっとっ?」


暴れだしそうな雰囲気の久美子の手を、竜は掴んだ。


もう一度、唇に触れるだけのキスをして。





「・・・好きだから」





そう、囁いた。





「っ!?」


その瞬間、久美子の顔はボンッと音をたてるように真っ赤になった。


バックンっバックンと心臓が音を立てる。


「なっ・・・なにっ・・・・・・・」


「キスしたいと思う理由なんて、好き以外ないだろ?」


「すっ・・・好きって・・・わっ、私をかっ?!」


「ほかに誰がいんだよ・・・。」


はぁ・・・と、呆れた溜息をつかれても。


あまりに衝撃が大きすぎて、起きすぎて。


(きっ・・・きすだってっ・・・お、おおおおおだぎりがっ・・・すきっ・・・してっ・・・)


ドキドキ・・・・物凄い音を立てて鳴り響く心臓に、頭がパニクっていた。


(い、いやっ・・・すきがっ・・・だから・・・きすっ・・・・・いや・・・だからっ・・・)


「お、落ち着けっ・・・そ、そう・・・そう・・・お、落ち着かなきゃっ!!」


久美子は俯いてブツブツ呟くと、ガバッと顔を上げた。


ドキドキいってる胸を必死で押さえ込んで。


しっかりと、でも真っ赤な顔で竜を見る。


久美子の言動の意味がわからず、竜は訝しげな顔をしていた。


けれど冗談を言ってるようには見えない。


また胸が信じられないくらい大きく鳴った。


深呼吸して。落ち着かせて。


「お、小田切っ!い、いいいかっよ、よよくきけっ!!って、か、顔を近づけるなっ!?」


頷いて、ズイッと近づいてくる竜の顔を手で押し退ける。


眉を顰めながらも、竜は顔を離した。


「い、いいかっ?わ、私はっ自分で言うのもなんだけどっ・・・色気がないっ!!らしい・・・」


「・・・・・・・は?」


(いきなりなんだ・・・?)


「それにっ!なな・・・7歳か・・・8歳・・・もっ!歳が違うっ!!」


「・・・・・・だから?」


「お、おまけにっ!教師だっ!!」


「そんな意気込んでいうことじゃねーだろ・・・。・・・・で?」


「え・・・・?」


「なにが言いたいんだよ。お前・・・」


「・・・え・・・・・・・・」


じっと見つめられて、久美子は返す言葉に困った。


なにって言われても・・・。


自分でも・・・よくわからない。


言葉に詰まる久美子に、竜は身体を正面に戻すように座り直すと、静かに言った。





「諦めろっていってんなら・・・無理だからな」


「・・・・・・え?」


「教師とか、歳の差とか・・・そんなの関係ねーし・・・」


冷静で。でもとても真剣な声と、横顔に。


その言葉に。


久美子はなぜか。


心が・・・すごく、ホッとした。


どうしてだか、わからないけど・・・。


だけど。


すごく・・・嬉しかった・・・の、かな・・・?


よくわからない気持ちに、首を傾げる久美子だったけれど。




「お前がなに言ったって、諦める気ねーから」


そういって、振り向いた真剣な顔に・・・。




久美子は。


ふわりと、微笑んだ。





「・・・・・・そっか・・・・・」





優しそうに。少し、嬉しそうに。


どうしてだかわからない。


ただ・・・自然と、笑っていた。












その気持ちの意味を。笑顔の意味を。


久美子が気づくのは、もう少し・・・あとのこと。

















そして竜は。


その微笑みに一瞬驚きながらも、手を伸ばした。


(どうして・・・こいつは・・・)


苦しくて、泣きそうになる感情を隠すように、久美子の身体を抱きしめる。





諦めない。


そう言ったって。


結局それは、きっぱり振られるのを恐れてるだけにすぎないのだから。




それはやっぱりとても臆病なことで。


なのに・・・。


迷惑でしかない。


臆病でしかない言葉でさえも。


久美子は・・・受け入れて。包み込んでしまった。


その優しい、暖かな笑顔で・・・。








どうして・・・。こんなにも。


綺麗で、優しいのだろう・・・。








肩に顔を埋めて。


強く、強く・・・抱きしめる。


躊躇って。戸惑って。


やっと触れられたぬくもりは。


なによりも暖かくて、優しかった。




















それから数日後。


竜と久美子は、相変わらずな二人の時間を過ごしていた。


薄い雲と、青い空の下で。





「・・・ん〜・・・今日もいい天気だっ!」


ベンチに座って、久美子は明るい笑顔でよく晴れた空を見上げた。


その笑顔の隣で。竜は、小さく微笑む。




もう・・・見つめることに、躊躇うことはなかった。


子供のような笑顔を好きなだけ見つめて。



竜は・・・同じように、空を見上げた。





薄い雲と、青い空。


逃げていた頃には、気づかなかった空が広がっている。


よく晴れた、優しい雲と、どこまでも続く青い空。


竜は、その空を見上げながら、呟いた。





「なあ・・・・・」


「ん?」


互いに空を見上げたまま、言葉を返す。


溢れそうになる想いが・・・少し、心を戸惑わせるけれど。


とても、いいたいことがあった。





「・・・俺・・・・・好きでいてもいいよな・・・?」





好きになってくれとは、いわない。


ただ・・・許してほしいと思った。


こんな風に、そばにいることを。





「・・・頑張ってもいいよな・・・俺・・・・・」





その存在に、手を伸ばして。触れることを・・・。








その問いに。


ただ、真っ直ぐに。


空を見上げる横顔に。


久美子は少し戸惑いながらも。


胸に溢れてきそうな想いに、苦笑いを浮かべた。





「オススメはしないし。応援だって、私はできないぞ?」





私は、やっぱり教師で。


それ以上・・・踏み出すことは、きっとできない。





「・・・でも・・・・・・」





だけど・・・。





「・・・いいんじゃないか?」





胸に溢れる想いに、嘘はつけないから。


曖昧だけど・・・。確かに、想ってしまった気持ちに。


嘘はつけないから。





だから。





「頑張ってみるのも」





そう。嬉しそうに、笑った。













薄い雲と青い空の下。


優しい笑顔の久美子へと。


嬉しそうに微笑んだ竜の手が伸びる。





距離を縮めて。近づいて。


そっと触れた柔らかな頬に。





竜は、優しい・・・キスをした。














あとがき


お待たせしました。やっとこ完結ですっ!

もうなんか乙女チック、少女漫画風な終わりになってしまいましたね。

えっと雰囲気がちょっと違っちゃうので、べつにしたんですが、
ちょっとしたおまけがあります。

バカップル風味気味ですが、興味がある方は、下へとスクロールしてくださいませ。


























おまけ。





その後、二人は。


「おだぎりっ・・・・ずっと、お前に言おうと思ってたんだけどな・・・」


「・・・・・なんだ?」


「・・・お、おまえ・・・頑張るところを間違えてるぞ・・・」


「そんなことねーよ。」


「いーや。ものすごく・・・ははははてしなくっ・・・絶っ対にっ・・・まっ間違えてる・・・」


「いや。物凄く、果てしなく、絶対に、これが一番、効果的だ。」


「おっ、お前がっただしたいだけだろうがっ!?」


「お前が一週間授業休まなかったら、キスしてもいいっていったんだろ?」


「だっだってっいつまでも授業サボらせるわけにはいかねーじゃねーかっ!!」


「キスを条件にしたのはお前だからな。」


「うぅっ・・・ほかに思いつかなかったんだっ・・・。だいたいっ・・・私は一回って・・・」


「いってねーよ」


「だっ・・・だからって何回もする奴がいるかっ!も、もーおしまいっ!!」


「・・・はぁ・・・・・わかった・・・」


「まったくっ・・・っ・・・・ん゛ーーっ?!」





こんな感じに。


仲良くやっているらしい。








あとがき


今までの雰囲気はどこへ行ったんだって感じです。

なんかどうしても「頑張るところを間違えてる」ってことが書きたかったので。

隼人のように不貞腐れることがない分、てゆーか悩みやすい分、
竜は強い時はとことん強気です。

乙女チックさが一気に消えた・・・。

まあ、これはこれで、こんな感じということで。