二人のランチタイム





んっふっふ〜〜♪


お昼休み。久美子はお弁当を持って、3Dの教室がある校舎へと来ていた。


時々作ってくれるテツのお弁当は、久美子の大のお気に入りだ。


玉子焼きも入ってるし。金平ゴボウやホウレン草の胡麻和えも入ってるし。


里芋の煮物も、テツご自慢の肉団子だって入ってるのだっ!


鼻歌交じりにルンルン気分で屋上へと続く階段を上り始めた久美子。


すると、屋上の扉が開く音が聞こえた。


思わず顔を上げて見ると。


「・・・ん?小田切?」


丁度屋上へと出ていく竜の姿が見えた。


なぜかその手に鞄を持って・・・。














「・・・はぁ・・・・・・」


辺りを見渡した竜は、安心した様子で息を吐いた。


誰もいない屋上に、とりあえず一安心。


ホッとしながらも、手に持った鞄に視線を落とすと眉を寄せる。


自分でも、かなり情けないようなガキくさいようなことをしているという自覚はある。


だが、これをあいつらの前で見せるのには、もっと抵抗があったのだ。


屋上の隅に座り込んだ竜が鞄から出したのは、お弁当だった。


父の許しも出て、学校へと正式に行き始めた竜に、母が作ってくれたもの。


朝、渡された時は驚いたけれど。正直嬉しかった。


だけど、それを隼人達の前で出すのはどうも気恥ずかしいというか。なんというか・・・。


日向が弁当を持ってきた時に、からかいの的になっているのを見た所為もあってか。


お袋には悪い・・・。と思いつつも、こうして帰るふりをして一人屋上へと来たのだ。


ばれないようにと鞄の中に横向きに入れられたお弁当は、見事に片寄っている。


もう一度心の中で深く母に謝りながら、箸を動かしたその時。





「おっ!お前も今日は弁当かっ!?」





明るい声が降ってきた。


顔を上げれば、ニコニコと笑う久美子の姿が。





竜は軽く溜息をついたあと。


その口元に緩やかな笑みを浮かべた。











二人は、本当によく逢える。











そんな隅の方に座ってないで、もっとこっちっ!


と、久美子に腕を引っ張られながら屋上の中央らへんに場所を移した竜は、


すぐ隣の久美子へと視線を向ける。


空を見上げる久美子の存在は、日の光さえも優しくさせるのだろうか?


空気さえも穏やかで・・・。


見つめる竜の心も、その優しさや穏やかさに染まっていく。


思わずその頬に触れたいと思いながらも、嬉しそうに膝の上でひろげ始めたお弁当に視線を移した。


二段の弁当箱の中には、黒胡麻のかかった白いご飯と綺麗に詰められたおかず。


久美子が作ったのだろうか・・・と思いつつも、即座に苦笑とともに否定した。


(・・・それはねーな)


微かに動いた表情を感じ取ったのか、久美子が竜を見やる。


「お前っ・・・今、失礼なこと思っただろっ!」


「べつに?」


フッと笑って、自分の弁当を食べ始めた竜に、久美子は眉を寄せる。


竜の弁当に視線を向けて。


少しションボリした顔で、今度は自分の弁当を見下ろした。



テツの作ってくれたお弁当・・・。


自分で作ったんじゃないお弁当・・・。


そりゃ・・・こんなに綺麗には作れないさ。どうせ・・・。


料理はあまり得意じゃないし。


お弁当も作ったことないし・・・。


で、でもっ、洗濯とか掃除とかは大丈夫なんだぞっ!



と、声を大にしていいそうになった自分を、慌てて抑えた。





そして疑問。





・・・・・・?


あれ・・・?


なんで・・・そんなこと思ったんだろ?


・・・・・・・?





そして、その疑問にも疑問。





・・・・・・・・?


・・・いや・・・べつに思うのは普通・・・?


・・・あれ??


????





なんか・・・こんがらがってきた・・・。





「・・・・・・?」


首を傾げながら、頭に?マークを飛ばしまくっている久美子に、竜は眉を寄せる。


「・・・食べないのか?」


「え・・・?・・・あっ、そ、そうだっ!」


竜の言葉にハッとした久美子は、一瞬にして疑問をどっかへ吹き飛ばすと、


嬉しそうにお弁当を食べ始めるのだった。











肉団子を食べて、幸せそうに彼女は微笑む。


何もかもすっかり忘れてる彼女は、テツのお弁当に夢中であり・・・。


そしてお約束ともいえる言葉を口にした。








「んん〜っ!やっぱりテツの肉団子は最高だなっ!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


穏やかだった竜の表情が、一瞬にして強張った。


久美子が作ったものじゃないなら。当然、それはあの家の誰かが作ったものであり。


それはわかってる。わかってるけど・・・。


久美子の口から。しかもとびっきりの笑顔付きで、幸せいっぱいに叫ばれれば・・・。


当然、ムカツク。


おまけに。思い出してみれば、テツという人は久美子と大して年齢も違わない人で。


花形とたとえられるような人で。


・・・そういえば・・・。あの時、二人は一緒に帰ってきてなかったか?


ということは、それまで一緒に・・・・・・・・。



次第に空気がヒンヤリしてきたが、久美子はまったく気づかない。


玉子焼きをうまうまと口にする彼女のただいまの意識は、空気ではなく、


竜のお弁当に入っている玉子焼きなのだから。


「んん?お前の玉子焼きも綺麗だなっ!家のは甘いんだぞ?お前の家はどうなんだ?」


興味津々に無邪気な笑顔で。しかも、クイクイと服を引っ張るおまけ付きで。


竜は何とかテツのことを抑えると、自分の弁当の玉子焼きを久美子の口に運んでやった。


「んんっ・・・家より控えめな感じだけど砂糖入りだな。・・・うんっ!美味しいっ!」


にっこりとした笑顔に苛立ちも治まってきた竜は、一息ついて穏やかな気分に戻る。


それは?と、次に興味を示したおかずを久美子に食べさせてやっていると、彼女が何かに気がついた。


ふと思い。そして笑顔で言った。


「なんかこうしてると、こいびと・・・どー・・・し・・・みたい・・・だ・・・・・・」


言ってるうちに、気がついたらしい。


というか思い出したらしい。


久美子は、笑顔のまま固まった。


カラン・・・と、なにかが落ちて転がった気がする・・・。


動きは止まっても。赤くなる頬までは止まらない。



う・・・うっかりしてたっ!!


そ、そそうだったっ!!


な、なにっ言ってんだっ私はっ!!



かあぁぁぁ〜〜っと顔中が、カッカッと熱を上げはじめて・・・。


「だ・・・だだだー・・・だっ・・・だだっ・・・だー・・・」


誤魔化すように訳のわからない音程をつけながら、久美子は少し竜から離れると


身を縮めて真っ赤な顔で俯いた。


うぅっ・・・と、恥ずかしさに小さくなる姿に。


さっきから、かなり理性を削られていた竜は当然。


「−−−−・・・うわっ・・・ちょっ・・・っ・・・んんっ!」


久美子の腕を掴んで引き寄せ、唇を奪った。


「おっおだぎりっ・・・っ・・・んぅ・・・・・・っ・・・」


久美子は必死で突っぱねる。


が、理性のキレた竜から逃れることなど、出来るはずもない。


「おっお弁当がっ・・・」


「心配ねーよ。ちゃんと置いてある」


突然の行動と思いきや、きちんと二つのお弁当を安全な場所に置いておいた竜は


逃げようとする久美子の腰を引き寄せる。


チラッと一瞬、遠くに転がっている箸が見えて。


竜はこの後のことを思い描いて、幸せそうに微笑んだ。


そしてパニックっている真っ赤な久美子をさらに抱き込んで


今この瞬間に得られるものは全て得る!というように・・・奪い続けた。





理性のキレた男ほど。厄介なものはない。


クールな男ほど。危ないものはない。


それをわかっていながらも、久美子のうっかり屋さんぶりは、直ることはないのだった。








逃げそうになる久美子を押し倒し。キスしまくり。


とりあえず満足したらしい竜と、半泣き状態の久美子はその後。








お箸を転がしてしまった久美子は、竜が差し出してくれるものを食べるしかなく。


テツの作ったお弁当を久美子へとやりたくない竜は、母の作ったお弁当だけを久美子の口に運び、


久美子のお弁当の残りは、全部自分で食べるのだった。








良かったのか悪かったのか。


こうして二人のランチタイムは、過ぎていった。









あとがき


このお話は、これで終わりです。

なんか竜クミは似たような話になりがちですね・・・。

竜が食べさせてあげるのが、二人のお決まりになってるようです。

書きながら、隼クミ以上に突っ走りたくなるのは何故だろう・・・?


久美子の浮かんだ言葉と疑問の意味は、なんとなくお解かりの方もいらっしゃるでしょうか?

後々、判明いたしますので。(なので、今の段階では曖昧に終わってます)

それにしても・・・竜は穏やかな時とキレてる時の差が激しいですね・・・。

そして久美子が、うっかりしすぎ・・・。