学校の帰り道。久美子はテツとミノルが屋台を出している神社へと歩いていた。

いつもより寒くて、吐く息も真っ白。

早く暖かい家に帰るのもいいけれど。できたてアツアツのたこ焼きが食べたかった。

「・・・?」

ふっと・・・視界に白いものが見えた。

どこか輝いているそれは、真っ白な雪・・・。

「雪っ!!」

思わず声を上げた。嬉しくて、笑顔が浮かぶ。

見上げる空から、はらはらと雪がふりそそぐ。

空高く、ずっとずっと上から降りてくる真っ白な雪は、どこか神秘的で綺麗だ。

白い雪がふわりと頬に落ちて、体温ですうっと水へと変る。

その冷たさに、久美子はハッとして慌てて駆け出した。


冷たい風に身体を震わせながら、途中の自販機で一度立ち止まって、
3本の温かいお茶カンを抱きしめて走り出す。



赤い屋台が見えた。







「−−−お嬢っ!?」

走ってくる久美子の姿を見つけて、テツは思わず屋台から出ると大きな声を上げた。

「よっ!」

「お、お嬢っ!冷えますから、早く家にお帰りにっ」

トンッと音を立てて立ち止まった久美子は軽やかに笑ったけれど、テツは困ったように眉を寄せる。

オロオロと落ち着きなく、必死で、とにかく帰らせたい。

雪が降りはじめた時から考えていた。

丁度学校が終わった頃だ。お嬢はもう家にお帰りになったっただろうか。

突き刺すような風と身体を冷やす雪。大切なお嬢が、風邪をひいたら大変だ。

そんなテツの思いをよそに、久美子は相変わらずの笑顔で抱えていたカンをテツに差し出した。

「ほらっ!」

「・・・・・・えっ?あの・・・」

笑顔に一瞬言葉を無くしてしまう。

少し戸惑った後、テツは大人しくカンを受け取った。

「す、すいやせん・・・・・・あちっ!」

思わず握ってしまったカンはジンッと焼けるように熱くて、慌ててカンを両手の上で転がす。

クスクスと笑う久美子に頬まで熱くなるけれど、
すぐにこんなことしてる場合じゃないっと顔を引き締めた。

降り注ぐ雪は止むことはなさそうで、どんどん久美子の髪や服についていった。

テツにも同じように降り注ぐ雪だけど。テツには、久美子へと向く想いしかない。

「濡れますから、早くお帰りになってくだせー」

「大丈夫だよ、このくらい。テツの方そこ、そんな薄着で寒いだろ」

「あっしは平気ですから。早くお帰りに・・・」

お帰りにを繰り返すテツに、久美子は苦笑いを浮かべながら話を逸らすように近くを見渡した。

「ミノルのやつはどうした?」

「公園までトイレに行ってます。・・・あの・・・」

「そっか。じゃ、たこ焼き一つねっ」

人差し指をピンッと立てて、ニッコリ笑顔。

「お、お嬢っ」

困りながらも、テツは思っていた。

早く帰ってほしいと思いながらも。
その笑顔を向けられると、心がざわついてしまう。

髪も服も頬も、濡らしていく雪。降り続く雪。

雪が邪魔だと、憎らしいとさえ、思ってしまう。

雪が降らなければ。雪がなければ。

なにも考えずに、お嬢と一緒にいられるのに。

力を込めた手に再度感じる熱い熱と胸に宿る熱。

その熱を誤魔化すように、テツは屋台へと視線を移した。

そして今更に気づく。

「おっお嬢っ!こっちへっ!!」

久美子を雪から守りたい気持ちが上回ったからか、いつも触れることを極端に意識し、
避け続けるテツが自ら久美子の腕へと手を伸ばしていた。

掴んで引っ張って、屋台の屋根の下へとつれていく。

最初からここにつれてくればよかったのだ。すっかり忘れてた。

屋根を満足そうに見上げて、久美子に視線を戻す。

「ぐわっ!!すっすいやせんっ!!」

掴んだままの腕に気がついて、飛び出しそうなほどに心臓がドクンッと動いた。

慌てて腕から手を離す。

跳び上がりそうな感じのテツに久美子はまたクスクスと笑った。

「今日のお前、面白い」

「・・・・・・・・・・・・・・」

全然テツの想いに気づいていない久美子は、実にノンキで楽しそう。

そんな久美子の笑顔に、テツは小さな苦笑いで返した。

結局強くでれないのだ。お嬢には。

下手に言葉を言った分だけ、余計に濡れさせてしまっただけだった。

好きな通りにさせるのが一番の方法だと悟ったテツは、
ご希望通りにたこ焼きを焼こうと手を動かす。

・・・と、握り締めていたカンの存在を思い出した。

温かいお茶カン。お嬢の手には2本のカン。

それは自分達のために買ってきてくれたものだ。

また、今更ながらにそのことに気づく。

少しぬるくなったそれは手に程好い温かさを伝えてくれる。

ほわっと感じる熱は、高鳴る鼓動を加速させるけれど。

温かな優しさに心がホッとした。

「・・・ありがとうございます、お嬢・・・。・・・いただきやす」

口元を緩めて、テツは小さく頭を下げた後、カンを開けた。

「・・・うん」

その隣で、久美子は穏やかに微笑んだ。





カンを飲みながら、いまだ降り続く雪を眺める。

このまま降り続いたりしたら、絶対雪を嫌いになってやる。

学校は明日もあるのだから。大切なお嬢が風邪や事故にでもあったら大変だ。

そんな風に雪を敵視していたテツだったけれど、案外現金な性格だったらしい。



「綺麗だな・・・雪・・・。積もるといいな。そしたらまた一緒に見ような?」

「へっへいっ!!!」


楽しそうな笑顔と言葉に。テツは顔を真っ赤にしながら、
嬉しそうな笑顔で力一杯頷くのだった。





あとがき

久しぶりのテツクミです。やはり書くたびにテツクミが好きだと感じます。

でもどこか物足りないような気が・・・・・・。う〜ん・・・モヤモヤ・・・・・・。

リハビリ小説のつもりが、余計に悩みの種を増やしてしまってどうするよ・・・。