「ヤンクミー」 「ん?どうした?武田」 「飴玉とクッキーがあるんだけどさ。一緒に食べない?」 そういって久美子の前に差し出されたのは、綺麗にラッピングされた二つの箱だった。 黄色いリボンがついた正方形の箱と、赤いリボンがついた長方形の箱。 それは誰が見てもプレゼント用だ。 「一緒にって・・・誰かからのプレゼントじゃないのか?」 首を傾げる久美子に武田は一瞬だけ可笑しそうに笑って、曖昧に答えを返した。 「んー、まあ、大丈夫。俺が貰ったプレゼントじゃないから。」 「?」 ますます首を傾げる様子に今度は小さな苦笑いを浮かべる。 もっと上手い言い訳を考えてくればよかった。 緊張して。心臓がうるさくて。ここまで来て、そんな考え浮かぶわけない。 「ま、まあ、いいからいいから。で、飴玉とクッキーどっち食べる?あっ、開けるのは一つだけね」 かなり怪しいし強引だけど。持ち主であろう武田がいいといっているのだから・・・ そう思って、久美子は答えた。 「一緒に食べるならクッキーがいいんじゃないか?」 「そーいうと思った!」 武田の顔に、笑顔が浮かんだ。 黄色いリボンを解いていく。 遠慮がちだったヤンクミの表情も嬉しそうに輝きだして。 手が震えてないか、心配だった。 「ヤンクミ、美味しい?」 「んん!ほいしいっ!」 正方形の缶の中には数枚のクッキー。 時間をかけて、一枚をゆっくりと食べた。 味わってるように見えるかもしれないけど。味なんて全然わからない。 バターの甘い香りと、嬉しそうな笑顔。 ドキドキと胸は高鳴って。少し、欲張りなことを思う。 「・・・ヤンクミ、楽しい?」 そう聞くと、本当に楽しそうに頷いてくれた。 だからもっと欲張りになってく。 (クッキー食べるたびに、今日のこと、俺のこと・・・思い浮かべるくらい、考えるくらい、楽しい?) そんなこと、あるわけない。 ヤンクミはきっと、誰と一緒に食べていたって。俺じゃなくたって、きっとこんな風に笑うんだ。 もしかしたら・・・誰か他の人のことを思い浮かべてるのかもしれない。 そんなの嫌だけど。そうかもしれない。 でもまだ・・・。 もしまだ、誰もいないなら。その誰かに、俺はなりたい。 ほんの些細なことでもいい。瞬間のことでもいい。 俺を少しでも思い浮かべてくれたら・・・どんなに嬉しいだろう。 その心の中に・・・ちょっとでも俺が入り込めたら、どんなにいいだろう。 ずっと・・・そう思ってた。 「すごく美味しかった。ありがとな」 「これ、ヤンクミにあげるよ」 にっこりと微笑むヤンクミに、空になった缶を渡した。 「いいのか?」 「可愛い花の絵が書いてあるからさ、小物入れになるじゃん?」 そう言って笑いながら、包装紙と黄色いリボンをポケットの中にしまい込んだ。 きっとまた・・・これも捨てられない。 ヤンクミも、ずっと捨てずにいてくれたらいい・・・。 使わなくても、何も入れなくても。 部屋に、そばに、置いてくれるだけでいいから・・・。 「・・・それから・・・これも・・・」 震えそうになる手で、もう一つの赤いリボンの箱をヤンクミの手の平にのせた。 「え?でも・・・・・・」 ラッピングされてるのが気になるのか、戸惑うような表情に小さく溜息をつく。 「ヤンクミ、今日がホワイトデーって忘れてない?クッキーも飴玉もバレンタインのお返し!」 「えっ?!そ、そうなのかっ?!なっなんだ、なら初めッからそういえよ! もらえるなんて思ってなかったから、すっかり忘れてたっ」 思い出したように慌てて、それからほんのりと頬を赤く染めて。 「そっか・・・お返し・・・。ありがとな」 恥ずかしそうに、でも嬉しそうに。ふわりと優しく微笑んだ。 ドクンッと大きく音がなって。ギュッと拳に力を込めた。 本当は飴玉だけでもよかったけど。渡すだけじゃ嫌で、一緒に食べたくて、クッキーも買った。 でも欲張りな自分が恐くて。これからとても卑怯な手段に出る自分が恐くて、小さな賭けをした。 最初に飴玉を選んだら、何も言わないでおこう。ただ何も言わず、渡すだけにしよう。 だけどクッキーを選んだら・・・・・・。 「ヤンクミ・・・その飴玉、全部自分で食べてよね・・・?」 「うん、ちゃんと大事に食べるよ」 「食べる時は、俺のこと思い浮かべてよ?」 「うん・・・武田に貰ったんだから、思い浮かべるよ?」 少し首を傾げて優しく微笑む姿に抑え切れなくて、肩を引き寄せた。 「・・・飴玉が全部解けてなくなるまで・・・ずっと考えて・・・」 「武田?」 背中に腕を回して抱きしめると、間に挟まった箱が身体にあたった。 赤いリボンの箱。その中には、カラフルな飴玉が沢山詰まったガラス瓶が入ってる。 「飴玉が全部なくなっても、空き瓶見て、俺のこと思い浮かべて、考えて・・・ 心の中・・・俺で一杯にしてよ・・・・・・」 ずっと、そう思ってた。そうなってほしかった。 だって・・・俺の心はヤンクミで一杯なんだよ? いつもいつも思い浮かべて、考えて・・・好きだって想ってる。 心の中に好きな気持ちがどんどん増えて。その度に凄く嬉しかったけど・・・。 だんだん・・・俺の心が一杯だけじゃ、満足できなくなったんだ。 同じようにヤンクミの心も一杯じゃなきゃ・・・嫌だった。 こんな風に無理やり想わせてでも、その心に入り込みたかったんだ・・・。 捨てられない紙が増えた。リボンも増えた。 恐くて聞けないけど。 ヤンクミのそばにも・・・いつまでも・・・ あの缶と瓶が、あったらいいな・・・・・・・・・・。 あとがき こ、これは・・・ど、どうなんでしょうか・・・?自分でもわからない出来です。 結局何が書きたかったんだろう・・・。そしてなんでまたもシリアスなんだろう。 途中で視点変えたのが大きな間違いかも。いつもと同じように書けばよかったかな? というか一言でいってしまえば、やはり武クミはむずい・・・・・・。 |