突然ティッシュ箱 その日の朝。 朝から九条に出会えることを期待しながら学校へと向かっていた久美子は、なぜか・・・ 「・・・あの・・・山口先生っ・・・!?」 「は、はい・・・?」 桃ヶ丘女学園の教師である九条・・・ではなく、桃ヶ丘女学園の生徒二人につかまっていた。 桃女の生徒は武田の想い人である真希以外全然知り合いなどおらず、呼びとめた二人の生徒に まったく久美子自信は覚えがなかった。 職員会議までそんなに時間もなかったけれど、いつも男の視線だらけで女の子の可愛い視線に なれていない久美子は、必死な瞳で見つめてくる二人に断ることもできず、誘われるがままに 学校から少し離れた人気のない公園に連れてこられてしまった。 「ごめんなさい。朝の忙しいときに・・・」 恐縮したように頭を下げる少女二人に、久美子は戸惑いながらも軽く手を振った。 「いいえ・・・あの、それで・・・?」 覗うように首を傾げる久美子に、少女達は互いに目を合わせて頷きあい、 「あの・・・私達・・・・・・」 「山口先生にお願いがあるんですっ!!」 と、一人が突然久美子の両手を掴み、ずいっと距離をつめて言った。 「は、はいっ・・・・・・・?」 潤んだ瞳と強く両手を包む手に一瞬たじろいだ久美子だったが、もう一人の生徒が背中に なにか隠しているのを見つけ、ハッと気づく。 「あ、ああっ!!もしかしてうちの生徒のことですかっ?」 隠しているものがプレゼントだと考えた久美子は、あいつらもなかなかやるじゃないか〜 などと嬉しそうに笑顔を浮かべたのだが。 「あのっ・・・山口先生に、これをひいてほしいんですっ!!」 「・・・はっ?」 バンッと、目の前に差し出されたものに固まった。 差し出されたもの。それは花柄のティッシュ箱だった。 と、いっても中身のティッシュは入っていないようだけど。 もちろんティッシュ箱がプレゼントだとはさすがの久美子も勘違いはしないがさっぱりわけが わからない。 花柄とはいえ、ティッシュ箱と必死な様子の女の子二人・・・。 どう考えても、変な組み合わせだ。 それに言っている意味もよくわからない。 「どうしても山口先生にひいてほしいんですっ!!」 首を傾げる久美子に、二人の必死なお願いは続く。 「お願いしますっ!!」 潤んだ瞳で真剣に見つめられ、久美子はわけもわからぬまま頷くしかなかった。 「わ、わかりました・・・」 「あ、ありがとうございますっ!!」 頷いた久美子に、二人は可愛く手に手をとって「キャーっ」「やったわーっ!」と笑顔で喜んだ。 嬉しそうな二人の姿に、困惑していた久美子も「喜んでもらえるならまあいいか・・・」と、 深く考えるのを止めて微笑んだのだが・・・。 その安易な考えが自らの危険を近づけ、この二人の可愛い少女がその危険でとんでもない事態を 引き起すことにも、この時の久美子には知る由もないのだった。 とっても浮かれて楽しそうな二人に声をかけるのを躊躇ってしまう久美子だったが、腕時計に目を むけると職員会議の開始時間をさしていた。 会議はしょうがないとして、HRに遅れるのはやっぱりまずい・・・。 と、遠慮がちに声をかけた。 「あの、それで・・・」 「あ、はいっ!あの、この中に入ってる紙を一枚引いてほしいんですっ!」 「はあ・・・」 目の前に差し出されたティッシュ箱を覗き込むと、確かに何枚かの紙が見える。 目をキラキラさせながら、ワクワクとなにかを待ち望むかのような少女の顔になんとなく違和感を 感じながらも、久美子は手を伸ばした。 抽選かなにかか?と、狭い入り口に手を突っ込んで、一枚の紙を手にとって引く。 二つ折りの白い紙が出てきた。 「その紙に書かれていることを先生にやってほしいんですっ!!」 「・・・えっ?!」 引くのと同時に少女が言った言葉に、久美子に嫌な予感が走る。 抽選といえば、なにかもらえるとか当たるとか! そういうことじゃないのかっ?! なのに・・・。 「や、やって・・・ほし、い・・・?」 「「はいっ!」」 見事にそろった少女達の声に、久美子は引いてしまった紙を思わずティッシュ箱に戻そうとした。 「−−−−っ!?」 けれど、それより先にティッシュ箱は一瞬のうちに久美子の視界から消えてしまった。 「よろしくっ!!」 「お願いしますっ!!」 物凄い速さでティッシュ箱を背中に隠した二人は、ニッコリと可愛く笑った。 その笑顔が・・・なんとなく子悪魔のように見えたのは、気のせいだろうか・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 いや〜な予感に顔を引きつらせながらも、すでに引いてしまった紙は自分の手以外に行き場はなく、 その時初めて・・・自分がとんでもない事態に遭遇していることに気がついた久美子だった。 (新手の教師いじめかっこれは・・・・っ!?) 嫌な予感とショックを感じながらも、もうすでに後戻りできないところまできてしまっている久美子は 紙を広げる以外にどうしようもなかった。 恐る恐る二つ折りになった紙を広げる。 ニッコリと微笑んでいた二人の顔も真剣なものに変わり、あたりに緊張が走った。 そして・・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 書かれた文章に目を通して、久美子は固まった。 「・・・こ、これ・・・を・・・?」 思いもしなかった内容に、久美子は固まったまま虚ろな目で少女達に問い掛けた。 微かに震える久美子の手から紙を取った少女達は、その文に目を通した後。 とびっきりの笑顔で、久美子を見つめた。 「「よろしくお願いしますっ!!」」 その二人の笑顔に、これから起こる出来事を想像した久美子は 女子高生は、恐ろしい・・・・・・・。 と、真っ青な顔で思うのだった。 「山口先生っ!聞いてるんですかっ!?」 結局、会議だけでなくHRにも間に合わなかった久美子は、1時限目に授業がないこともあり 教頭にしつこく説教されていた。 が、久美子はそれどころではなかった。 「あ゛ぁ〜〜っ!!教頭っ!!ちょっと静かにしてくださいっ!!」 「な、なんですかっ!?その言い方はっ!?」 「私は今っものすごいピンチなんですっ!!」 「ピ、ピンチっ?!もしかしてまたなにか変なことに巻き込まれてるんじゃないでしょうねっ!!」 「・・・っ!?あ、い、いえっあのっ・・・じゅ、授業の準備がありますのでっ私はこれでっ!」 「ちょっ!?山口先生っ!!くれぐれも問題を起こさないでくださいよっ!!」 「・・・はぁ・・・どうしよ・・・。あの子達もなに考えてんだか・・・」 教頭から逃げるように職員室を後にした久美子は、廊下をトボトボと歩いていた。 ポケットに入れていたさっきの紙切れを取り出して、はぁ・・・と、何度目かの溜息をつく。 書かれている内容に、頭が痛い・・・。 「・・・あいつは絶対にまずいよな・・・・・・」 よりにもよって・・・。なんで一番やばい奴の名前が書かれてるんだ。 他の奴なら、まあ・・・それほど気にすることもないけれど。 「はぁ・・・。・・・そういえば・・・なんで知ってるんだ・・・?」 今更ながらの疑問に、久美子は足を止めた。 「指定してるってことは知ってるってことだよな?しかもフルネーム・・・」 手に持った紙に視線を落とす。 「好き・・・ってことはないか。好きなら私にこんなこと頼まないだろうし・・・」 考えてみるが、やっぱりさっぱりわからない。 それに・・・。 「なんで私にこんなことさせたいんだ?」 「こんなことって?」 久美子しかいなかったはずの廊下に、突然男の声が響いた。 「だからだき・・・・・・っ!?」 思わず反射的に声を返そうとした久美子は、ハッとして声がしたほうを振り向いた。 その声の主が視界に入った瞬間、久美子の目が大きく見開いていく。 「や、やぶき・・・・・っ!?」 その男が隼人だとわかると、久美子は慌てて手に持っていた紙をポケットに隠した。 その行動に、隼人は眉を寄せた。 気に入らない・・・と、視線が鋭くなる。 「な、ななななんでお前がここにいるんだっ!?」 一歩、隼人が足を動かすと、久美子はビクリと肩を震わせジリジリと数歩後退った後、 逃げるように走り出そうとした。 けれどその腕は隼人に捕らえられ、久美子は壁に追いこまれてしまう。 「なに逃げようとしてんの?・・・おまけに、なんか隠しただろ、今」 「な、なななんの・・・こ、ことだっ・・・?」 腕を捕らえ、覆い被さるようにして目の前に立つ隼人から久美子は必死で視線を逸らした。 (な、なんでこんなときにっ・・・) 「お、お前っ・・・授業はどうしたっ・・・!?」 「お前だってHRさぼったじゃねーか」 「わ、わたしはさぼったんじゃっ・・・」 「じゃあ・・・なにしてたんだよ?」 すぅ・・・と、隼人は視線を鋭くさせて、久美子との距離をさらに縮めた。 今朝。隼人は、前を歩く久美子に気がついていた。 距離はあったけど制服ばかりの中で私服の久美子を見つけるのはとても容易く、 久美子を見つけた時、隼人の顔は自然と柔らかくなった。 けれど土屋と日向に声をかけられて少しの間久美子から視線を離してる間に久美子の姿は どこにもなくなってしまったのだ。 一分もたたないうちに姿を消して、HRにもこない久美子に不安な気持ちになる。 一瞬の後姿と、まだ一度も声が聞けないことが心をイライラさせて職員室のあるこっちの 校舎まできたというのに。 廊下で後姿を見つけた時、ホッとした。微かな声に嬉しくなった。 なのに・・・久美子は逃げようとした。 うろたえて、何かを隠して、視線を逸らして・・・。 どんどん隼人の心は不機嫌になる。 「なにがあったんだよっ・・・」 苛立たしげに言いながら、なにかを隠したポケットに視線を向けると、久美子は慌てて 空いたほうの手でポケットを押さえた。 その行動にむっとしながらも、隼人はふいに浮かんだ考えに意地悪な笑みを作った。 掴む腕を壁に押し付け、久美子の顎を掴み上げて強引に唇を重ねた。 「−−−−・・・んっ!?」 ポケットに気を取られていた久美子はいきなりのことに驚き、顔を真っ赤に染めて恥ずかしさに ギュッと目を瞑る。 (ま、まままたこいつはっ〜〜〜〜っ!) 壁に押さえつけられ、手も封じられ、ポケットも気にしなきゃいけないし、 隼人もどうにかしなきゃだし、キスも意識しちゃうわで久美子の頭の中はもうパニック。 「・・・っ・・・・・・はぁ・・・・っ!?」 やっとこさ解放されたと思ったら、今度は隼人の手がポケットの方に伸びるのに気がついて 真っ赤な顔に整いきれてない息で、それでも必死でポケットを押さえる手を強めた。 これだけは駄目だっ!と、いうような久美子に、隼人の怒りは爆発寸前。 「お前っなに隠してんだよッ!?」 グググッと久美子の手を引き離しにかかる。 「な、ななんだっていいだろッ!?」 けれど久美子も負けずに、グググッと踏ん張る。 緊迫した空気が漂った。 とてもついさっきまで、一方的とはいえキスしていたとは思えない二人の攻防は、どちらも 譲れないと火花を散らすのだが。 遠くから微かに聞こえた足音に、隼人が一瞬気を取られたのを久美子は見逃さなかった。 力の弱まった隼人の手を振り解き、目の前の身体を突っぱねる。 「っ!?おいっ・・・山口っ!?」 そして久美子は猛スピードで廊下を走り去っていった。 「なんなんだよっ!?」 あとに残された隼人は、おさまりきれない苛立ちに叫んだけれど、久美子が逃げるように 去っていった方向に視線を向けると表情を曇らせた。 イライラして、苦しくて・・・行き場のない感情がもどかしくて、目を伏せる・・・。 触れたぬくもりを思い出して・・・。 隼人は静かな廊下で一人、不貞腐れたように壁を蹴った。 1.終 2 へ あとがき この小説は、元々「弱点で遊ぶ久美子」というリクを拍手で頂いたので 書いてみようと思ったのですが、ごめんなさい。 私が書く久美子は大抵が「受身で時に後ろ向きで、とことん押され気味にくわえ 無自覚、無防備、無意識に相手を魅了しちゃう」な感じの人なので、どうも精神的に 上に立つ久美子が書けませんで・・・・・・。申し訳ないです。 それにしても色々伏せているので、わかりずらいですね・・・。 後々に、これ以前に隼人と久美子の間にあった出来事や、紙の内容、女子高生の目的など、 色々判明すると、思います・・・。 |