デート ほんわか昼下がり。 「デートに誘われたぁぁ〜〜ーーーっ??!!」 白金学園の保健室では、突然大声が響きわたった。 「お、お二人ともっ!!こ、声が大きいですよ〜!!」 声をそろえて大声を上げた二人に、久美子は慌ててキョロキョロと辺りを見渡した。 あまりのことに口を開けたまましばらく放心していた2人だったが、顔を真っ赤にして慌てふためく久美子の姿に 笑いがこみ上げてくる。 普段の彼女からは想像できない可愛らしい姿。 極道の実家をもつ彼女は生徒を愛し、教師を愛し。 強くたくましいといえるほどの女でありながら男女のことには、疎くて弱い。 「で、相手は?」 「誰なん?」 「・・・そ、それは・・・・・・」 耳まで真っ赤に染めて、視線を彷徨わせながら言葉を詰まらせる。 「まぁ、いいけど・・・。でも、山口先生にもとうとう春が来たってことよねー」 「そうやなー・・・なんかちょっと一人もんのうちらには、むなしい話しやなぁ」 菊乃は溜息をつく。 「うちらって、私を一緒にしないでくださいよ!!」 菊乃の言葉に、心外とばかりに、静香が口を挟んだ。 「・・・あ、あの・・・」 2人の間に、不穏な空気が流れはじめたとき、久美子は小さく呟く。 「わたし・・・べつに、恋人が出来たわけじゃ・・・」 「え?」 「・・・べ、べつに・・・こ、告白とか・・・されてないし・・・」 「デートに誘われたんでしょ?それって・・・」 「す、好き、とかも・・・いわれてないし・・・からかわれてるだけかも・・・」 小さく呟きながらシュンとなる久美子に、2人は視線をチラリとあわせ呆れた顔でそっと苦笑いを浮かべた。 (本当に・・・なんて鈍い人なの・・・) (ほんまに成人してるのかねぇ・・・) ((誰かしらないけど・・・相手も大変だわね・・・)) 恋には、鈍くて不器用で・・・。 嬉しいくせに素直になれなくて、不安ばかりが溜まって積もる。 そんなふうに悩む歳でもないだろうと呆れてしまう。 それでも・・・ 「・・・でも、山口先生は、デートに誘われて嬉しいんでしょ?」 「そん人のこと、好きなんやなぁ」 膝の上でキュッと両手を小さく握りしめて、戸惑いながらもゆっくり小さくコクリと頷いた姿に・・・ ほんの少し・・・羨ましく・・・思った。 日曜日。 元白金学園の生徒。内山晴彦は、人の行き交う街の中を早足で歩いていた。 担任である山口久美子を好きになった。 よくある教師への淡い憧れかもと思ったときもあったけど、教師と生徒の枠を外れても募る想いに本当の恋を見つけた。 卒業後も度々電話をしては、休みの日は一緒に過ごすこともあった。 けれど彼女の超がつくほどの鈍さと、自分自身も前に進むことへの不安からはっきりしない関係が続いる。 逢うたびに彼女も同じ気持ちでいるような気がして、精一杯の勇気から出た言葉は 「デートしようぜ!!」だった。 突然過ぎるし、先に言うことあるだろっ!!と、口にしたあとで気がついたけれど 驚いたように固まった久美子の顔が、カァァッと音をたてて真っ赤に染まったのに驚いた。 「なっ、なっっ・・・」 狼狽える久美子にちょっと意地悪そうに顔をのぞき込んだら、コクリと頷いて真っ赤になりながらも 彼女は柔らかく頬笑んだ。 その表情がとても可愛くて、思わず抱きしめたい衝動を抑えるのが大変だった。 それからというもの、その顔を思い浮かべてはだらしなく顔が緩んでしまう。 待ち合わせの場所。周りには同じく待ち合わせらしい人たちの姿がある。 時計を見ると、約束の時間の10分前。 久美子の事だから遅れてくるかもと思いつつも、辺りを見渡してみた内山は、少し離れた場所に目を奪われた。 「ヤ、ヤンクミ・・・?」 一歩一歩、ゆっくりと近づいていって、その存在を確かめる。 淡い色合いのワンピースに、スラリとした白い足元には、高めのヒールサンダル。 バックを両手で握りしめて、眼鏡のない顔はほんのり頬を染めている姿に胸がドクンと高鳴る。 行き交う人も、騒がしい音も。すべてが消えて、彼女しか見えなかった。 今この空間には2人きりで・・・早く傍に駆け寄りたくて、抱きしめてしまいたいのに・・・ 足がなかなか進まない。 とても可愛くて・・・あまりに綺麗で・・・でも・・・とても遠い気がした。 「なぁ、いいだろ?」 ふいに耳に男の声が聞こえて、ハッと我にかえるとナンパされている久美子の姿があった。 「待ち合わせしてるっていってるだろっーーー!!」 急いで久美子の傍に駆け寄り、男が久美子に触れる瞬間グイッと久美子の腕を引き寄せた。 「ーーーーーわりぃ、待たせたか?」 「う、内山っ?!!」 驚いている久美子を素早く背中にまわして男を睨み付ける。 「・・・チッ」 男もにらみ返してきたが、舌打ちするとその場をあとにした。 男の姿が完全に人混みに消えるまで睨み付けて、久美子に視線を移す。 「・・・お、おはよう・・・」 「お、おう・・・」 さっきからずっと握ったままだった腕の感触を今更ながら感じてしまって身体中が熱くなる。 抱きしめたくて、ほんのりと赤く色づいた唇にキスをしたくて・・・。 見つめ続けることが出来なくて、フイッと視線を逸らしたら一気に現実に引き戻されたように 久美子を見る男達の視線を感じて苛立ちが広がる。 「内山・・・?」 苛立ちが顔に出ていたのか久美子は戸惑った瞳で見上げてきた。 「・・・あっと・・・映画まで時間あるから、どっかで時間つぶすか・・・」 「あ・・・うん・・・」 やばい・・・。可愛すぎだ・・・っっ!! 久美子の腕を引きながら内山の頭の中は、パニックに陥っていた。 正直言ってこんなにも久美子がデートということを意識してくれると思ってなかった。 いつもと変わらずのテンションなのもそれはそれでショックだけど、きっとそうだろうなと思っていた。 今までにない可愛すぎる久美子に、感情がついていかない。 嬉しいのに、戸惑いもあって・・・・・・。 自分のことで頭が一杯で・・・ だから・・・久美子の表情が曇ったのを。 不安な気持ちを・・・気づいてやることが出来なかったんだ・・・。 デパートのヒンヤリした空気を感じて、少しずつ熱くなる身体が落ち着いてくる。 冷静になってくると、やっぱり気になるのはチラチラと久美子を見る男達の視線ばかり。 自然と視線が鋭くなるのを感じる。 こいつは俺のものだ・・・。 俺だけのものだと心がざわつきながらも、久美子に視線を向けることが出来なかった。 視線を交わさない言葉のやり取りが続いて、腕を引いて歩きだしてから彼女にまともに視線を向けたのは エスカレーターに乗っている時だった。 「ーーーッッッ??!!」 突然腕に柔らかな重みを感じて、咄嗟に目を向けると、一段下に乗っていた久美子が足を滑らせて 腕にしがみついている状態だった。 「お、おいっ!!大丈夫か?」 咄嗟のことにずれおちそうな身体を慌てて抱き寄せて、二、三歩先にあるフロアの床まで足を伸ばした。 近くにあったベンチに久美子を座らせると、彼女は俯いてしまった。 「・・・ご、ごめんっ・・・」 俯いて言った久美子の声がどこか沈んでいるような気がして、顔を見ようとしゃがみ込んだとき 彼女の足が目に入ってきた。 「お、お前、血出てるじゃねーかっ」 サンダルで擦れたところの肌は皮がむけてサンダルのほうにも血がにじんでいた。 「こりゃ、ひでーな・・・絆創膏貼ってもよけい擦れるだろうし・・・」 絆創膏を貼ってもよけい密着して刺激を与えてしまう。 「んー・・・歩けそうか・・・・・っっ?!!」 とりあえず何とかしようと思って久美子の顔を見上げると、久美子は辛そうな顔をして・・・ 目からは涙が零れていた。 「お、おいっ!泣くほど痛いか?何でこんなになるまで我慢してたんだよー!!」 ぼろぼろと涙を流す久美子に、どうしたらいいかわからなくて焦りから口調が強くなる。 「ち、ちがうんだっ・・・大丈夫っ・・・大丈夫だからっ・・・」 ぼろぼろと零れる涙を隠すように、目元を片手で隠してもう一方の手で大丈夫だと手を小さく振る。 苦しそうに、辛そうに顔を歪ませながらも、無理をして笑顔を浮かべる。 その姿は、とても弱くて・・・。もう我慢が出来なくて・・・。 震える久美子を抱きしめた。 久美子が泣く理由は、傷の痛みだけじゃない。 理由はわからないけど、足の傷も久美子の気持ちもこんなになるまで気づいてやれなかった。 自分のことばかりで、まわりばかりを気にして・・・。 久美子を一人きりにさせていた・・・。 「・・・ごめんな。・・・俺ん家帰って手当しよう。歩けるか?」 「っっ!!だ、大丈夫だっ!!全然大丈夫だからっ、映画見に行こうっ!!」 「無理すんなってっ・・・痛いだろ?ここじゃちゃんと消毒できねーし・・・、なっ!」 腕をほどいて、落ち着かせるように頭を撫でる。 「だ、だめだっ!!え、映画見てっ・・・だ、だから・・・」 「映画はまた今度見ればいいだろ?」 その言葉に久美子の涙でにじんだ瞳が、驚いたように大きく見開く。 「・・・え?・・・ま・・・た・・・?」 「?」 「だ、だってっ!!なんかずっと怒ってるみたいだったし・・・ こんな面倒かけて・・・あ、呆れたんだろ?だから、もうデートなんてしてくれない・・・っ!!」 服を握りしめながら、沈んでいく久美子にウズウズとした感情がわき上がって力一杯抱きしめた。 座ってる久美子の肩に顔を埋めて、止まりそうにない緩みまくる顔を隠す。 「う、内山っ?」 顔を肩に押しつけても、わき上がる笑いが止まらない。 嬉しくて、可笑しくて。 「怒ってないし、呆れてなんてねーよ。心配すんな・・・」 不安だった。久美子を見つめて惚けてるうちに、現実の彼女が別の男の所に行ってしまう気がした。 気を許したら誰かが久美子を連れていってしまいそうな気がして、イライラしていた。 でも、そんなのバカな考えだった。 久美子はずっと自分だけを見てくれていたじゃないか。 だから彼女の気持ちが自分に向けられていることを感じることが出来た。 相思相愛だと、2人の気持ちはちゃんと通じているって思ってたけど、それは一方的なもの。 外側に無意味な柵を作って、遠くから見ていた自分の気持ちをただでさえ鈍い久美子に完全に届くわけない。 「不安だったんだよな、ずっと・・・」 大切なのは、気持ちを伝えること。言葉を紡ぐことだ。 「・・・俺もさ、お前のこと好きだから。大好きだからさ・・・」 「だからこれからも・・・いっぱいデートしような。」 「ーーーー・・・っ・・・うん・・・」 久美子の顔を真っ直ぐ見つめて、笑顔を向ければ・・・ あの時と同じように・・・久美子は、柔らかく幸せそうに・・・頬笑んでくれた。 そして俺は、その笑顔に引き寄せられるように・・・キスをした。 あとがき? こ、こんなのがリクエスト小説なんて、すみませんです!! 書き始めて思ったのですが、両思い話が苦手ということが判明してしまいました・・・。 誰だ、お前らっ!!て、いうくらい別人だし・・・本当に申し訳ないです・・・。 読み返して見ると、このカップルは、果てしなくバカップルですね・・・。 でもこのお話で、うちのサイトのキャラが出来たような感じです。 強引で嫉妬深くて、独占欲の固まりで、心が狭くてガキな慎(ひどい・・・)にたいし、 内山は、独占欲が強く、でも包容力があって、結構大人なキャラな気がします。 |