「誰だよ。そいつ」(・・・タイトルです。・・・ほかに思いつかなかったので・・・。) その日のお昼休み。黒銀学園の3Dの生徒達は、皆で一緒に昼食を取っていた。 いつもの彼らならば、それぞれがバラバラに好き勝手な場所で食べるのだが。 昨日のHRで。担任である久美子に言われたのだ。 「お前ら、明日のお昼は皆一緒に食べようっ!!」 出席簿をとった後に、なぜかとても楽しそうにニッコリと笑って彼女は言った。 「はあ〜っ?!なにいってんだよっ!」 「冗談きついぜ、ヤンクミっ!!」 「せんせー、そういうことは小学校でいってくれます〜?」 当然、生徒達からは、一斉にブーイングの嵐。 けれど久美子は、アホらしいと馬鹿にする生徒達の態度も大して気にする様子もなく ますます笑みを深めていった。 「大勢で一緒に食べるってのも良いもんだぞ?クラスもやっとまとまってきたしさっ!・・・なっ!」 ニッコリと。それはもう満面の笑顔で。 一斉に、うっ・・・と押し黙る。 なんとなく・・・この笑顔には弱い。それに、怒らせたらもっとやばい。 怒ったときの久美子を思い出して大半の生徒が顔を引きつらせる中、ふいに冷静な声が上がる。 「一緒にって、無理に決まってるだろ。全員が弁当持参してきてんじゃねーんだぞ。」 壁を見ているフリをして、ずっと横目で久美子を見ていた竜だ。 「そうそう。飯、もってこれねー奴はどうすんだよ。」 竜のあとに続いて、これまたじっと久美子を見ていた隼人が言う。 もっともな意見だ。けれど久美子は動じなかった。 「その辺は心配すんなっ!!」 彼女の顔に得意げな、意味ありげな笑みが浮かぶ。 「私がた〜くさんっ!持ってきてやっからっ!!」 腰に手を当てて得意げに笑った久美子の言葉に、一瞬、空気さえも止まった気がした。 数秒のあと、どっと騒がしくなる。 「なになにっ!!ヤンクミって料理できんの?!」 「そりゃねーだろっ!ぜってー全然できないってっ!」 「そうだよなっ!俺、パスっ!」 「俺もーっ!購買のパンのほうがマシだろっ!!」 「それじゃ、全員でカップラーメンってのどうよっ!」 「おお〜っそうだなっ!!ヤンクミっ、ポット用意しといてっ・・・・・・・・・・っ!?」 バッと軽快に扇子をひろげた土屋は、クルッと久美子へと視線を向けた瞬間、固まった。 なにやら、空気が重い。オーラが怖い。頭に流れるBGMが恐ろしい。 ちょっとばかし・・・気づくのが遅かったらしい。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前ら・・・。それはどういう意味だ・・・っ!?」 地を這うような、ドスの聞いた声が響いた。 ビク〜ッ!ビシ〜ッ!! 一斉に空気が張り詰める中・・・・・・・・・・。 武田がハッと我に返った。 「・・・そ〜いや〜・・・この前のヤンクミの弁当、結構美味しそうだった・・・かも」 何日か前に。久美子が家から持ってきたらしい弁当を食べているのを見たことがある。 チラッと覗いた弁当は、なかなか美味そうだったことを思い出した。 「マジ?」 信じられないというように、一斉に武田に視線が集まった。 「み、見た目だけだけど・・・」 自信なさげに言う武田に、久美子は声を荒げた。 「見た目だけってなんだよっ!おいっ!!」 その声に、視線が久美子へと移る。 むっとした表情の久美子をマジマジと見やって。 興味が湧いて。けれど誰か一人が口を開くのより早く、沢山の視線を向けられた久美子が耐え切れなくなった ように言いにくそうに、しゃべり始めた。 「・・・持ってくるっていっても・・・私が作ってくるわけじゃないんだけど・・・・・・」 「え?そうなの?じゃあ、あの弁当って」 「な〜んだよっ!!ヤンクミ、その年になってまで親に作ってもらってんのか?なっさけねーな〜っ」 「・・・・・・いや・・・。親・・・でもないんだけど・・・。・・・って、情けないって・・・。 た、確かに・・・料理はあんま得意じゃないけど・・・・・・」 ボソボソと呟いた言葉は、生徒達には聞こえていなかったようで。 「おう、本当に美味そうだったのか?」 「ああ、なんか結構こってる感じでさ」 久美子の料理じゃないとわかった時点で、生徒達の不安は全て解消されたらしい。 明日食べる弁当に興味津々なようだ。 けれどそんな中、竜と隼人は不機嫌な表情で久美子を見ていた。 (親じゃないって・・・んじゃ、誰だよ・・・) ボソリと呟いた久美子の言葉を、この二人だけは確かに聞いていたようで。 その言葉が妙に気になるのだった。 その頃、大江戸一家のキッチンでは。 「兄貴ー。こんなに沢山の材料、どうすんですか?」 「明日、お嬢が生徒さん達と一緒に弁当食べるらしくてな。お嬢のためにも最高の弁当を作って やろうとおもってよ」 「はー、お嬢は本当にいい先生っすね〜っ! でもそれを全部兄貴に作らせるってのもお嬢らしいっすね〜っ!」 −−−−−−−バシィッッ!! 「−−−−−っ!?す、すみませんっ!!」 明日のお弁当の準備が行われていた。 そんなこんなで、みんなで食べることになった昼食なのだが。 久美子を慕っているからか、久美子が恐ろしいからか。 はたまた、ただで昼飯にありつけるからってだけか。 理由はさまざまだろうが、見事に全員しっかりと教室に集まっていた。 「よ〜しっ!!全員、そろってるな〜!!」 生徒達の前に、ニッコリした笑顔の久美子が弁当箱を持って現れた。 「フフ〜ッ、みて驚くなよ〜っ!」 自分で作ったわけでもないのに、なぜか得意げな様子で教室の真ん中に机を寄せて作った 大きなテーブルの上に、ドンッとそれを置いた。 その弁当に、生徒達は目を見開く。 風呂敷に包まれたそれは。 弁当箱というより、お重だ。三段重ねの見事なお重。しかも2つ。 「・・・なんか・・・花見みてーだな」 誰かが呟いた言葉に、皆一斉に頷く。 その言葉に久美子は優しく笑った。 「本当は外で食べたかったんだけどな。寒いし、それに教頭もうるさいだろ?」 こんな狭い空間じゃなくて。気持ちのいい空の下で食べたいと思ったのは確かだけど。 現実問題、そうもいってられない。 だけど生徒達が楽しい、そう、まるでお花見のような気持ちで食べてくれればと思っていた久美子は 花見みたいと思ってくれたことが嬉しかった。 物珍しそうにテーブルを囲む生徒達の興味津々な視線に、久美子は軽快にお重を広げていく。 一段、二段・・・。 あらわになるたびに、「お〜っ」「すげーっ」など、彼らにしてはえらく大人しい感激の言葉が 次々とあがった。 綺麗に並べられたおにぎりに、可愛い黄色の卵焼き。 煮物だったり。焼き魚だったり。和食中心の段もあれば。 唐揚げやウインナー、星形の楊枝に刺さった可愛い洋食な感じまで。 おまけにちゃんと野菜も添えられて。 なんとまー、美味しそうなこと。 「ほら〜!ぼーっとしてないで食べるぞ〜っ!はい、お皿」 久美子はクスクスと笑いながら、生徒達に紙のお皿と割り箸を渡していく。 「よっしゃ〜!!食べようぜ〜〜っ!」 「おうっ!いっただっきま〜すっ!!」 誰かの言葉と共に、一斉に弁当へと伸ばされる割り箸達。 「俺、卵焼き〜っ!」 「里芋の煮物か?これ」 「あ゛ぁ〜〜っ?!おいっ!てめー、それは俺が狙ってたウインナーちゃんじゃねーかよっ!!」 「おまえっ!!何個おにぎりとってんだよっ!!!」 「あ〜っほらほら。みんな!沢山あるんだから、喧嘩すんなよっ!」 注意しながらも。久美子の顔は、嬉しそうだ。 その両脇には。ちゃっかりと、竜と隼人の姿があった。 皿の上の煮物を静かに食べる竜と、おにぎりを食べる隼人。 二人の表情は、不機嫌なままだ。 朝から・・・。っていうか、昨日のあの言葉の後から。 二人はずっと不機嫌だった。 親じゃね〜っていったい誰だよ・・・。 頭のなかはそればっかりだ。 気になってしかたない。 自分達が知らないことが沢山あることは嫌でもわかっているけれど。 それが当然だということも頭では理解できるけど。 気持ちのうえでは・・・気分良くない。 黙々と食べながら。チラリと様子を伺いながら。 ニコニコと嬉しそうな久美子の隣で。 二人は、思った。 もの凄く。 気にくわない。 前編。終。 後編は、こちら 今回は、私にしては珍しい3Dのクラス風景です。 近頃お題がしんみり系なので、明るいお話でも。と、思い書いたお話です。 |