空を見上げて・・・


ポツリと呟いた言葉とともに頬に一粒のしずくが流れた。


もう雨は降ってはいなかったけれど、これはきっと見えない雨なんだって・・・


空から降り注ぐ雨なんだって、そう・・・思いたかった。








「・・・ねぇ、さくらくん?」



雨の降り続ける窓の外を見つめ続ける彼女に、必死に気持ちを押し殺して。



「本当は・・・他に大切な用事があるんでしょう?」



必死に笑顔を浮かべて。僕にできるほんの些細なことでもしてあげよう。



たとえそれがどんな結果になろうとも。



君が嬉しそうに笑ってくれるなら・・・。



驚きに目を大きく見開いたまま強張った彼女に、できることをしよう。



「バックの中の紙袋・・・誰かに渡したいんじゃない?」



僕のところに来た時、まるで隠すようにバックに詰め込んだものの存在を



ずっと気にしながら知らぬふりをし続けてた。



もしかして自分への・・・と、都合のいい期待をしていたけど



そんなものももう終わりにしないといけないから。



「これ・・・作ってみたんだ・・・」



そう言って、戸惑った様子で紙袋から取り出されたのは



ハンカチに包まれた甘い香りのクッキーだった。



「・・・食べて、みてくんない?・・・自分じゃ、味見してないから・・・」



誰かのために作ったクッキー。



すぐにそうだってわかった・・・。



あちこち欠けてて少し形の崩れたクッキーだけど



もう冷めているはずなのにすごく暖かくて、優しいクッキーだと思ったから。



震えそうな手で一番小さなクッキーをとって、口に含んだら・・・



甘くて暖かくて優しくて、それとほんの少し、苦いような気がした・・・。



「うん。おいしい・・・。すごく・・・」



・・・思いを込めて作ったクッキーなんだね。



こんなにも・・・君の心がいっぱいに詰まったクッキー。



きっと・・・このクッキーを受け取る誰かも、気づいてくれるから。



だから、もう辛い顔はしないで。






「・・・あ、あたし・・・もう・・・そろそろ・・・」



「・・・うん。そうだね・・・」



慌てたようにクッキーをハンカチに包んで席を立った彼女に



隠しきれない苦しみが漏れた笑顔で頷いて、そして・・・。








「・・・ねぇ、さくらくん」





最初で最後の手作りクッキーが・・・そのクッキーでよかった。





ずっと・・・触れることができなかった君の気持ちに





どんな形であろうとも触れることができたから。





「・・・今日で・・・最後にしよう・・・」





だから・・・終えることを・・・・・・。





「−−−−?!・・・・・・っ・・・」





決められたのに・・・





「・・・えっ?さくらくんっ、こ、これっ?!」





なのに・・・





「・・・今日で・・・最後なんだったら・・・」





どうして・・・





「・・・すっごい失敗作だけど・・・」





腕の中にある・・・・・・・?





「・・・あんたに作ったものだからっ・・・」





・・・・・・え?





「ちゃんと全部っ、不味くってもっ、食べてよねっ!」





!?!?





・・・なんて・・・





「・・・・・・って?!さ、さくらくんっ?!!」























花輪くんの家から・・・



走って、走って・・・どんなに雨が冷たくても、苦しくても、走った。



ううん・・・逃げたんだ。



バカみたい・・・ホント、バカみたい。



「・・・はぁ・・・はぁ・・・」



息をするのも辛くなって足を止めたのは、ともえ川の土手だった。



気がつくと雨は止んでいて思わず空を見上げた。



「いまさら晴れたって遅いよ・・・」



小さな声で呟いたら



頬には冷たいものが流れて



やっぱり雨は止んでいないことに気がついた。



見上げた空には光が射したけど・・・






小さな賭けだった。



曇り空の日曜日。



もしも晴れたら・・・外に誘ってクッキーを食べてもらおうと思ってた。



あの豪華な屋敷の中でひろげるにはあまりにも不細工なクッキーだから。



美味しくないのもわかってる。比べるまでもないことも。



でも晴れた空の下なら、少しは美味しそうに見えるかもしれないと思ったから。



花輪くんが食べてくれて



そうしたら・・・



このずっと胸にある



よくわからない気持ちをすこしでも言えるような気がしてたけど・・・。



『・・・今日で・・・最後にしよう・・・』



結局・・・なんにも言えなかった。



どうしてなんて、聞くこともできなくて。



でもきっと雨が降ったように



神様か誰かが言うのはやめなさいっていってるんだってことなんだと思う。



もうこの気持ちは終わりにしなさいって・・・。



だから最後に、恥ずかしい気持ちも捨てて、クッキーだけでも。



渡せて良かった・・・。なにも言えなかったけど。



このよくわからない気持ちも・・・・・・って・・・



「・・・意地っ張りだね・・・あたし・・・」



頬を流れた冷たいものが雨だなんて、嘘。



わからないなんて、嘘だよ・・・。



本当は、ずっとわかってたのにね・・・。



この気持ちがなんて言うのかなんて・・・。



でも、もう・・・それも・・・



「ーーーー・・・くら・・・くんっ・・・!?」



・・・・・・・・・え?



「ーーーー・・・さくらくんっ!!」








3   終  4へ・・・


まだ続きます・・・。一応次回で完結です。

お互いにすれ違って、怯えたり不安になったり辛いけど・・・

こんな初恋なら、「実らない」なんて言葉も

なんでもないように吹き飛ばしてくれるよねっ!

という気持ちで、このお話は書きました。


でも、今回はちょっと書き方変えて書いたのですが、わかりづらいですかね。