卒業まで、あと少し・・・。 これからは。 もっと、もっと・・・頑張ろう。 可愛くて、愛しくて。 誰よりも・・・あいつだけが、ほしいから・・・。 君への贈り物 昼休み。久美子は屋上にいた。 隣には、いつものように竜の姿がある。 「なー・・・小田切ー?」 ベンチに座って、晴れた空を見上げたままの久美子に竜は小さく微笑みながら返事を返した。 「ん?」 返しながら、ついでに久美子の髪へと手を伸ばす。 艶やかでありながら、サラリと指をすり抜ける。 「お前卒業したらどうするんだ?」 「・・・べつに・・・?・・・まだなんも考えてない」 卒業してからのことよりも。 好きな人をどうやって手に入れるかの方が、正直いって、今の竜には重大だった。 その人に呆れたように溜息をつかれても。こればかりはしょうがない。 未来のことも。将来のことも。 彼女がそばにいてくれて、そしてやっと考えられる・・・。 だから俺のものになれとは、言わないけれど。 そのために、彼は頑張っていた。 彼女も気づいていた。 卒業が近くなるにつれて、頑張りが強い。 じっと見つめてきたり。髪や頬に触れてきたり。 可愛いなんて言葉は、日常茶飯事に囁くし。 なにがスイッチなのかわからないが、突然強引に出たり。 はっきりいって、久美子の心臓はバクバクしっぱなしだった。 ドキドキしてばかりだけど・・・。 見つめられるのも。触れられるのも。 きっと・・・嫌じゃないと思う。 でも・・・それ以上進めない。 『頑張ってもいいんじゃないか?』 そう言って。彼は頑張って。 それから・・・。 (・・・どうすりゃいいんだ・・・?私は・・・?) 嫌いではない。それは生徒だから、という意味じゃないっていうのはわかってる。 ただ、そういう意味での好きかって聞かれると、どうしたらいいかわからないのだ。 ドキドキして。バクバクして。 でも、でも・・・でも・・・・!! よくわからないものがゴチャゴチャしてて、こんがらがって、捻くれて。 彼女は出口がわからない。 けれど、彼から「俺のこと好きか?」って聞かれたら・・・ きっと彼女は無意識にでも、頷いているだろう。 確かに彼女は好きなのだ。彼のことが。 彼がただ一言、「好きか?」って聞けば、大きく前進するはずの恋なのに。 本当は凄く簡単なはずなのに。 二人は互いに絡まっていた。 臆病な自分を自覚して、時々悲観的になって。 とにかく彼女に好きな気持ちを伝えるのに一生懸命で、必死で頑張ってる男と。 教師と生徒の関係にとりあえず壁を作って、 その壁が壊れた時のことをまったく考えていなかった、恋愛下手な女。 二人の恋は、結構大変だった。 髪に触れて遊ぶ竜を横目に、久美子は俯いて聞いてみた。 「・・・そ、卒業しても・・・が、頑張るのか・・・?」 耳まで赤くして、恥ずかしげに俯く久美子は、とても可愛い。 「言っただろ?教師とか生徒とか関係ないって」 竜は距離を縮めると、彼女の頬へと手を伸ばす。 「卒業したって変わんねーよ」 優しい手が頬を撫でて、優しい声が囁きかけて・・・。 久美子はますます赤くなって身を縮めた。 「・・・そ・・・そっか・・・」 告白された日。諦めないと言われた時に感じたものと同じ。 安心したように、ふわりと久美子は微笑んだ。 隠しきれない嬉しさが顔全体に広がっているようで、それは竜の心を最大に刺激し熱くさせる。 とても可愛い。 けれど彼女は、あまりに可愛すぎて。彼はそれが愛しすぎて。 意識してくれている。もしかしたら自分を好きになってくれているんじゃないだろうか? ・・・なんて、そんな思いも・・・理性と一緒に、彼はぶっ飛ばしてしまっていた。 理性があればあったで、臆病になって・・・ 今度は反対に・・・彼は、なにもできなくなってしまうのだけど・・・。 頬から、赤く色づいた柔かな唇に指を滑らせて・・・。 頬へ一つ・・・。口元へ一つ・・・。 唇へ一つ・・・。 愛しい彼女へ・・・キスをした。 『頑張ってもいいよな』 『・・・いいんじゃないか?』 『頑張ってみるのも』 薄い雲と、青い空の下。 あの日。二人が交わした言葉は・・・・・・ 思いのほか、厄介なものだった。 1 終 2 へ あとがき まだ全然このお話の序章って感じです。 そして最強のアホッ子バカップルの誕生かもしれません。 特に竜が変だよ・・・。(泣) 中盤に差し掛かり、切なくなっていく隼クミとは対照的に、次第にバカップル路線まっしぐらな 二人になりそうですが、これから二人にも色々頑張ってもらう予定ですので。 拍手SS「ただいま餌付け中」は、後々の二人を描いているので、また度々「あーん」が出てくると 思いますが、飽きずにお付き合いしてくださったらな〜っと思いますっ!(苦笑) |