ガラスのショーケースにただ静かに入っていたのは、誘うように輝いた白い光だった。 「え?・・・じゃあ、しばらくは忙しいのか?」 赤いコートを着込んで歩く久美子が驚いたように振り向いた。 その瞳に小さな寂しさを見つけて、微かに沈んだ声色を耳にとめて。 少し後ろを歩いていた隼人は少し気落ちした表情を見せながらも、実はひっそり喜んでいた。 12月初めの休みの日。仕事が忙しくなると告げた。 高校を卒業して、こうして一緒に過ごす初めての冬。 昼間だけの仕事だったのを急遽、少し延長してもらったのは理由がある。 どうしても欲しいものがあった。用は、よくある「金がいる。」 寂しさを予感しながらも、男にはやるべき時があるものなのだ。 「寂しくなったら、家に来いよな?」 ふふんと大人びたすまし顔をして言う隼人に久美子は一瞬戸惑ってしまう。 「さ・・・寂しくはないけど・・・無理して風邪なんかひくんじゃないぞ!」 胸に感じた鼓動を誤魔化すように胸を張って、彼の頭を撫でようと手を伸ばすけれど、 撫でるよりも早く、がばりと抱きしめられていた。 「ひかねーよっ」 そう明るい笑った声色と暖かいぬくもり。 苦笑交じりに久美子は小さく微笑んだ。 忙しいは自分の言葉だったはずなのに。 寂しげな表情と不貞腐れた気分を見つけていたのも自分のほうだったのに。 いつのまにか、立場は逆転。 でも・・・そんな今の立場がどうしてだろう。くすぐったくて、暖かかった。 「矢吹は、忙しそう?」 それから3週間が過ぎた頃。 街の喫茶店。窓辺の席で前に座っている拓に久美子は問いかけた。 「大変そうだけど、元気ですよ」 にこりと笑う拓にほっとする。 隼人は仕事で忙しくて。でも、なんだか気持ちが落ち着かなくて。 そんな時はこうして拓を誘ってお茶をすることが多いのだ。 ふと、そんな久美子の視線が横へと動いた。 その視線を拓が追う。 「・・・もうすぐクリスマスだな。」 「そうですね。」 振り向けば、ちょうど店の隅に子供の背丈くらいのツリーが飾られていた。 体勢を戻して久美子を見れば、少しだけ寂しそう。その理由がわからなくて拓は首を傾げる。 「仕事は23日までだって言ってましたよ?24日からはしばらくお休みもらえたみたいですし」 「え?そうなのか?」 もしかして、と言ってみれば。やっぱり彼女はそのことは知らなかったようで。 内緒だったのかな?と思いつつも、思わず小さくはにかんで微笑んでるのを見てると、 よかったよね、と楽しそうに笑った。 ずっと、素直じゃない二人だって思っていたけど。 素直じゃないのは伝えることにたいしてだけで、本当は、とても素直な人達だと近頃思う。 けれど元々の性格がそうさせるのか。久美子ははっと何かに気づいて不安そうに眉を寄せた。 「あ・・・っと・・・なにか、予定があるのかな?あいつ・・・」 オドオドしながら窺うように問いかける。 拓からしたら、それはとても不思議でしかたないことだったりするのだけれど。 隼人から言わせれば、そんなところがマジで可愛くてたまらない。・・・らしい。 素直じゃなさそうで素直そうで。噛合っていなさそうで、噛み合っている。 やっぱり複雑な二人だと思いながらも、拓は不安げな久美子に笑顔を向けた。 「大丈夫ですよ?お父さんが先生と一緒にクリスマスディナーがしたいって言ったら、 凄く怒って、先生と一緒に過ごすって大声で叫んでましたから。」 はたからすれば、ちょっと恥ずかしいエピソードだったりするのだけど。 でも、久美子は拓の言葉に少し瞳を見開いて。 その後、頬を赤くして嬉しそうに笑うのだった。 それから数日後。クリスマスの少し前の日。 久美子は床にペタンと座り込んで、ベッドに顎と腕を乗せて。 伸ばした手に持っているのは、紺色の包み紙とそれより少し薄いリボンで飾られた四角いプレゼント。 ずっと迷っていた、彼へのプレゼント。 本当に迷って。こうして買った後も、渡すことを躊躇ってる。 少しだけ、不安だったから。 ・・・大人になっていくのが、不安だった、から・・・。 次へ・・・ |