好きな気持ちに気づいたら。

そいつに何か残したいって思うだろ?

お前は俺の特別なんだって

今はまだとどかなくても

いつか、ほかの誰のでもない



俺だけの特別にしたいんだって・・・








特別なシルシ




自分の思いに気がついた黒崎は、つないだ手の温もりに一人笑みを深くする。

もう昨日までの自分には戻れない。

この感情を手放すことも、忘れることも出来ない。

それが酷く大変なことでも、苦労なことでも、たまらなく心が疼く。

楽しくて、嬉しくて、愛しくて。

隣で子供みたいに無邪気に笑う久美子を見つめながら、改めて恋心を実感する。

このままずっとこうしていたら、どんなにいいだろう・・・



でも、そうもいかないんだよな・・・・









「あっ、おいっ黒崎っ!!ちょ、ちょっと!!」

手を繋いだまま玄関のドアを開け、急かすように久美子の腕を引きながら
部屋へと入っていく黒崎の後ろで慌てたように久美子の声が上がった。

「なんだよ、今更遠慮してんのか?」

「このまま上がったら、部屋が濡れちまうじゃねーかっ!!」

雨にビッショリと濡れている久美子の髪や服からは滴が零れ、
ポツリポツリと玄関を濡らしていた。

「あ?・・・べつに・・・・・・・」

部屋が濡れるくらいどうでもいい。
とにかく久美子を部屋に上げてしまいたかった黒崎は、
構わないと言おうとして、ふとイイ考えが浮かんできた。

黒崎の口元にニヤリと意地悪そうな笑みが浮かぶ。

「・・・しょうがねーなー、だったら・・・」

そういって、黒崎は素早く久美子の腰を正面から掴み、持ち上げた。

「ーーーーうわっっ!!な、な、なにすっっ!!」

突然フワリと宙に浮いた久美子は、慌てて黒崎の肩に手をかけてる。

「おっ、おいっ!!おろせっバカッ!!」

腰を抱く手や、すぐ目の前にある顔に何故かドギマギしてしまって、
ワタワタと足をばたつかせる。

「あばれんなって!よけい床が濡れるだろーが」

「う゛っ!!」

床を濡らすのはまずいっ!!

久美子は、むーっと口を尖らせながらも、渋々大人しくなった。

クッと意地悪そうな黒崎の笑いに、なんか子供扱いされてるみたいに感じる。

おまけに、腰を掴んでいた手が今度はスルリと腰に回されて、
その感覚に思わず黒崎の首に腕をまわしてしがみついてしまった。



その久美子の仕草に、腰にまわされた黒崎の腕に力がこもる。

「・・・お前さー・・・すげー腰細いのな・・・」

「ーーーんなっ!!この・・・アホ!ボケ!バカやろーーー!!」

首にしがみついたまま顔を真っ赤に染めた久美子の叫び声が響いた。







久美子は持ち上げられたまま脱衣所につれていかれ、マットの上に下ろされた。

「・・・お前、私のこと子供扱いしてるだろっ!」

髪ゴムを解かれ、タオルで髪を撫でられて、大人しくしされるままだった
久美子は、怒ったようなふてくされたような目で、黒崎を見上げた。

「・・・あ?・・・そんなことねーって・・・」

「めー逸らしてるじゃねーかっ!!」

「・・・はぁ・・・ガキっぽいとは思うけど・・・」

「ガキっ?!!失礼なこというなっ!!」

「・・・自分でも子供ッぽいって思ったから、
 子供扱いされてるって思ったんじゃねーの?」

「う゛っっ!!・・・そ、そんなことは・・・」

「図星だろ?・・・まぁ、自覚があるだけでもましだな・・・」

「むーー・・・なんかお前、意地悪だっ・・・」

ぶすっとして久美子はそっぽを向いた。

「・・・あっそ。・・・せっかくシャワーと着替え、
 貸してやるつもりだったんだけど・・・」

「なにっ!!貸してくれんのかっ!!」

黒崎の言葉にとたんに久美子の顔は、パァァと笑顔に変わる。

「でも俺は意地悪だそうだから・・・?」

「そ、そうじゃなくてっ!!
 意地悪だけど、優しい奴だって思ってたんだっ!!」





そのあと、久美子の着替えを持っていき、シャワーを浴びるように言った
黒崎は部屋の奥のテーブルに突っ伏した。

微かに聞こえてくるシャワーの音に耳を傾けながら、先ほどのことが思い出される。

力一杯抱きしめたら折れてしまいそうなほどに細くて、
首に巻きつく腕や全身に掛かる久美子の体重や柔らかな感触に、鼓動が高鳴った。

自分よりもふたまわり近く違う、
あの細い身体のどこにあんな力があるんだろうか・・・?

小さくて、ましてや女で・・・。

あんな目して俺を見上げて、それがどんなことになるのかもまったくわかってない。

俺の心の中を知ったら、殴り飛ばされるだろうか。

それとも訳わからずに泣くだろうか。

どちらにしろ、もう後戻りはできない。

腰を持ち上げたとき、こいつが逃れればまだ余裕があったんだ。

でも久美子は足をばたつかせるばかりで、反対にしがみついてきた。

俺は我慢強くない。

一気にあふれ出した気持ちを一人で抑えられるほど強くないんだ・・・。




前編終。後編へ・・・


あとがき

とりあえず、前編のみです。



この話の黒崎と久美子は、なかなか自分でも好きです。



後編は・・・どうなるのでしょう・・・?