たぶん、きっと・・・。


手を伸ばすのは。


とても、とても・・・簡単なこと。








臆病な恋








屋上で、ただなんとなく過ごす時間ができた。


「小田切っ!お前っ、またサボってっ!?」


だけど本当は、なんとなくなんて嘘。


「まったく・・・」


しょうがない奴だなって顔で隣に座る、こいつのそばにいたいだけ。


こいつが授業のない時間だけ。


ただこの時間だけは、二人きりの時間。





「ん〜〜っ・・・今日は良い天気だなっ!」


思いっきり伸びをして、明るい笑顔で空を見上げる。


その横顔を見ていたくて・・・。


だけど、視線を逸らして空を見上げてしまう。


薄い雲のひろがる青い空。


それは、好きなだけ見ることができるのに。





どうして。


すぐそばにある存在を、見つめ続けることができない?


見ていたいのに・・・。








見ればいいだろ?


見ていたいと思ってるくせに。


本当は、その髪にも。身体にも。


触れたくてしょうがないんだろ?


触れてしまえばいいじゃないか。


簡単だ。


こんなにすぐ近くにいる。


手を伸ばすだけで、すぐだ。








晴れることを願って。


ただ来るのを待って。


自分を見てくれるのを、待って。


触れられる瞬間を待って。





自分は、馬鹿か。





嘘ついて。誤魔化して。偽って・・・。


素直でいられなくなって。








結局、なにひとつ自分からはできない。


そんなんで手に入れられるほど容易いもんじゃないことくらい、知ってるだろ。











「・・・ぎり?・・・・・小田切・・・?」


「っ!?」


呼ばれる声に、ハッと我に返る。


心配げな山口の視線と、肩に触れた手の感触に。


ドクンと胸が高鳴った。


「どうした?辛そうな顔して・・・。気分が悪いのか?熱は・・・?」


スッと伸びてきた白い手に、思わず立ちあがった。


「小田切?」


「・・・なんでもねーよ。」


心配げな山口を残して。


俺は、背を向けた。











鳴り響く鼓動を必死に押さえて。


赤くなりそうな顔を、必死で隠して。


逃げるように。


必死で歩いて、校舎に入った。








重苦しい扉を閉めて、そのまま背を預けて額を押さえる。


自分から逃げたはずなのに。


自分以外の人間が、この扉を開けることを許せない。


あいつと一緒にいることなんて、許さない。


この時間は、俺のものだ。








「・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・」


落ち着け・・・。


時間は、1時間もないんだ。





深く息を吸い込んで。


扉から背中をはなしたと同時に、反対側から扉が引かれた。





「・・・小田切?」


扉を開けて、そこにいた俺に少し驚いた表情を見せたあと、


山口はまた心配げな顔をした。


「大丈夫か?」


微かに、また高鳴りそうになる鼓動を押さえ込んで。


「なんでもねーよ・・・。」


そういって、扉を押した。












たぶん、きっと・・・。


手を伸ばすのは。


とても、とても・・・簡単なこと。





だけど俺は・・・。


臆病すぎて。


なにもできないでいた・・・。











1  終  2 へ


あとがき


イチャツキバカップルの隼クミに対し、かなりのシリアス路線な竜クミです。


臆病なんだけど、

「すごくとんでもなく見つめたくて、触れたくて、好きで好きでたまらないっ!!」

てな、感じです。


ちょっとブラック気味なんですが、話が進むにつれて、「ぶち切れる」と思います。


切れたら、後は突っ走るのみ。そのうちバカップル気味になりそうな予感・・・。