『・・・・・雨の日がつづ』


ブチッと、テレビの電源を切った。


見るのが習慣になっていた天気予報。


どこをつけても。


なにを見ても。


3日間の雨、予報。


明後日は・・・あの時間がある。





80%の降水確率。


残りの20%と、明後日雨が止むことを願ってる。








相変わらずの・・・。


臆病な、日々。








触れたいんだ。とても・・・。


とても、とても好きだから。愛しいから・・・。


だけど俺は臆病で、手を伸ばすことも・・・できない。








臆病な恋 2








ざあざあと音を立てて降る雨に、悔しさが募る。


明日、晴れることのない。雨の予報。暗い空。





竜は本屋の軒下から、雨を見ていた。


天気の所為にしてる自分に溜息をつく。


たとえ晴れたとしても。なにもできはしないのに・・・。





目を閉じて、思い出す。


笑った顔。怒った顔。困った顔。戸惑った顔。


教壇に立つ、姿。ジャージ姿。私服姿・・・。


優しい声。怒った声。困った声。戸惑った声。


今日は、どんなだった?


なにを考えてた?


思い出すのは、あいつのことばかり。


でも一番思い出すのは・・・。


二人きりの時間。


薄い雲と、青い空の下にいる姿。


屋上で。二人きりの姿・・・。


怒った声。呆れた声。明るい声。


子供みたいな笑顔で。


晴れた空を見上げる横顔を・・・一番、思い出す。


ベンチに並んで座って。あいつの他愛もない話を聞いて。


たった、それだけの時間が、とても嬉しかった。











目を開けて、もう一度空へと視線を移した時。


「・・・小田切?」


聞こえてきた声に・・・胸が高鳴った。


聞き違えるわけないその声に、引き寄せられるように視線を向けると。


「・・・・・やまぐち・・・・・」


青い傘を差して、首を傾げた久美子の姿があった。


「どうしたんだ?こんなところで・・・」


不思議そうな顔で近づいてくる久美子に、竜の鼓動はどんどん速くなる。


思わず胸元を押さえそうになる手をギリッと握り締めて、なんでもない顔をした。


「・・・店ん中いる間に、傘持ってかれたんだよ・・・」


「えっ?朝から降ってたのに、傘持ってない奴なんていたのか・・・?」


「さあ?・・・間違えたってこともあんじゃねーの?」


「そっかぁ・・・それは、ついてなかったな・・・。小田切・・・」


自分のことのようにションボリと肩を落とす久美子に、思わず微かな苦笑いがでた。


「・・・本当だな・・・。ついてねーよ・・・・・・」


降り続く雨を見上げて、呟く。


「それで?誰か向かえ呼んだのか?」


「わざわざ呼ぶことでもねーだろ」


「じゃあどうすんだ、お前」


「・・・・・・べつに・・・。てきとーに走って帰る」


「はぁっ?!そんなの風邪引くに決まってるだろッ!ほらっ!!」


「・・・・・・!?」


呆れたような怒ったような顔と声で、ずいっと突き出された傘に。


竜は思わず息を飲んだ。


「送ってやるからっ!早く入れっ!!」


その言葉に。一気に、鼓動が強くなる。


ドクン、ドクンっと鳴り響いた。


「・・・こっからじゃ・・・遠回りだろ・・・お前・・・」


「そんなこと気にすんなっ。」


そういっても首を縦に振らない竜に、久美子は少し困った顔しながら考えた。


「・・・ん〜・・・どうしても気がひけるってんなら、家で傘貸してやるから」


それならいいだろっ?


名案だと。にっこりと笑った久美子に、竜は湧き上がる熱を誤魔化すように


大げさな溜息をついて。


少し戸惑いながら、傘に手をかけた。


「持ってくれるのか?」


ありがとなっ!


そう、笑顔でいった久美子から視線を逸らして。


歩き出した。











そばにある存在。触れそうな身体。


鳴り止まない鼓動を聞きながら。


雨の中。


見上げれば、そこには・・・青い空色の傘。


薄い雲はないけれど。優しい日差しはないけれど。


二人きり。


わかってる。こいつにとっては、きっとなんでもないこと。


あの場所に、俺じゃない。べつの知ってる奴がいたとしても。


同じことを言っただろう。


だけど、居たのは。今、同じ傘の中にいるのは。


確かに俺だから。








「・・・・・・そんなに・・・ついてねーこともない・・・」


思わず、呟いた言葉に。


久美子が笑顔を浮かべて言った。








「そうだなっ!私と逢えたからなっ!!」








満面の笑顔。


何気ない言葉。





だけど、この瞬間・・・。なにかが、動いた。





きっと・・・それが、はじまり。


この想いが生まれたのは、出会えたから。


だけど本当のはじまりは。





きっと・・・この瞬間だった。








臆病な心が。


ほんの微かに、動き出していた。














触れたいんだ。とても・・・。


とても、とても好きだから。愛しいから・・・。


出会えたから。逢えたから。


だからこそ・・・。


手を、伸ばしたいんだ。








2  終  3 へ


あとがき


次回でやっと「ぶち切れます」。すでにぶち切れてた隼クミの後なので、
なんか長ったらしいって思いますでしょうが、たぶん次回・・・か、
その次ぐらいには押しまくる彼と動揺しまくりな彼女が見れることでしょうと思います。


でもなんかこのお話、竜がとっても乙女チックなのは、気のせいだろうか・・・。

このまんまの雰囲気でいったほうがいいのかどうなのか・・・。少し悩んじゃいますね。

それにしても設定上とはいえ、久美子の青い傘は微妙なところかも・・・。

個人的には、赤い傘を差してほしいなって思うんですけど。