あいつを追いかけるようになって。 抱きしめるようになって。キスを奪うようになって。 いつぐらいたった頃か・・・。 ふと、気づいたことがある。 それは、俺の自惚れかもしれないけど・・・。 「彼女は一生、腕の中」 「あっ!おっ、おはようございますっ!九条先生っ!」 朝。視線の先に映る光景に、隼人は視線を鋭くさせた。 嫌な光景。吐き気すら感じる、憎らしい光景。 どんなに抱きしめたって。どんなにキスしたって。 あいつは今も・・・あの男を見上げてる。 だから、抱きしめる。自由を奪う。 そうしなければ。あいつは俺をみないから。 握った拳が。悔しさを込めた歯が、ギリギリと音を鳴らす。 あの男を見上げるあいつの顔など、俺はいらない。 あの男に向ける笑顔ほど・・・嫌なものはない。 あいつの全てがほしいけど。 あの顔だけは、いらない。 ほしくもない。 あんなものいらない。 そう思うのは、強がりだ。 意地だ。 わかってる。 だけどこの日・・・。 ふと気がついた。 「今日もいい天気ですね」 「そっそうですねっ・・・・・・・!」 にこやかな九条に笑みを返そうとした久美子は、隼人に気がつくと思わず顔を引きつらせた。 (ま、またあいつはっ・・・) 半ば呆れて、溜息をつきそうになる久美子を不思議に思いながらも、九条は腕時計に視線を移すと 遠慮がちに声をかける。 「あの・・・少し急ぎますので・・・。すみません・・・」 「えっ?!あっ・・・はい・・・それじゃ・・・」 慌てて九条に意識を戻し、先を行く背中をしばしションボリと見送った久美子は気を取り直すように 勢いよく振り向いて、すぐそばまで近づいていた隼人を軽く睨む。 「おはよう。矢吹」 「・・・・・・・」 憮然としたまま無言の隼人に溜息をついて、久美子は隼人の隣を歩く。 「お前、なんでそう朝から険悪なんだ?」 そう問いかける久美子には、不機嫌の原因が自分と九条にあることにはまったく気づかない。 「自分が九条と逢えた日に、隼人の機嫌が悪い時が多い」とは、なんとなく気づいてるけど。 そこから嫉妬という感情には、いきつかないのだ。思いもしない。 小田切の仏頂面の方がまだましだとか、夢見が悪かったのかとか、 あれこれと言っている久美子の姿を横目に隼人は思わず問い掛けた。 「お前、疲れねー?」 「え?」 一瞬、久美子は言葉の意味がわからず首を傾げた。 けれどすぐにハッとした様子で、慌てて頬に手をあてる。 「ま、まさかっくまがっ?!」 「あ?」 「昨日なんか冷えちゃってさ。あんま寝れなかったんだよな・・・」 はぁ・・・と溜息をつく久美子に、隼人も小さく息を吐いた。 (そういうこといってんじゃねーよ・・・) だいたい「疲れねー?」がなんでそっちにいくんだ。 竜に日本語指導する前にてめーが見直せ。 そう思いながらも、隼人は口を噤んだ。 あんな顔して。ギクシャクして。自分隠して。 疲れねー? はっきりいって全然よくねーよ。 やっぱり、そんなの。 俺はいらない。 たとえそれが恋する顔だとしても・・・。 強がりじゃなくて。意地でもなくて。 あんなもの。俺はいらない。 ずっといいものを、今の俺は知ってるから。 腕の中に持ってるから。 あの男を見上げる顔よりも。あの男の前でする妙な態度よりも。 俺の腕の中にいる時の方が、表情も仕草も・・・ずっといい。 真っ赤な顔したり。震えたり。恥ずかしさに泣きそうになったり。 時には溜息ついたりするけど・・・。 突っぱねたり。服、引っ張ったり。 ずっと可愛い。 そんな表情、仕草。 あの男にも。他の誰にも。見せるものか。 一生・・・一生、俺だけのもの。 「やぶきっ!もーいい加減はなせっ!!」 「まだいいじゃん」 だからやっぱり、今日も抱きしめる。自由を奪う。 見たいから。ほしいから。 俺を見るように。 俺だけを見るように。 今日も、腕の中から・・・逃がさない。 その2へ あとがき 久しぶりに、まとも?な隼人を書いた気がします。 正直にいいますと、これは「暴走癖のある男」と「恋の行方3」のカバーで慌てて書いたものです。(苦) 隼クミ部屋を作るときに読み返してたら、「暴走癖〜」での隼人の心情がどっかいっちゃってるような 気がしたので・・・。 |