初めて会った日。


心に不器用な父と兄とは違い、とても器用でカンが良くて素直な拓は、色々知った。


兄の恋。山口久美子さんの恋。


それから・・・もう一つ。


それはなんとなくな、曖昧なものだけど。


たぶん・・・そうなるんだろうなって思った。


・・・そうなってくれたらいいな・・・って思った。


そう、初めて会った日。たった1時間の出来事で。


未来を少し・・・知ったみたいだ。











「恋の行方」











「あとどっか寄ってくとこあったか?」


「べつに無いと思うよ」


学校が終わった後。


たまにはと早く家に帰った隼人は、丁度買い物に行こうとしていた拓に付き合っていた。


「んじゃ、あとは弁当買って帰るか」


「うん」


父博史に急な仕事が入り、なにか作ろうか・・・という拓に隼人は弁当を提案して二人で買いに来たのだ。


スーパーに寄り、ドラックストアにも寄り。ついでに本屋にも寄り。


男3人の暮らしは色々大変である。


一つずつ袋を持ちながら、弁当屋へと向かった。








その途中。隼人がなにかに気がついて、足を止めた。


「・・・わりーっ・・・ちょっと待ってろっ」


隼人はそう言い残すと駆け出した。


「え?」


突然の行動に驚き、車が来ている道路を猛スピードで渡る隼人の背中を目で追った。


(なに急いでるんだろ?・・・アイスクリーム屋さん?)


道路を渡りきって、アイスクリーム屋の前で足を止めた隼人の姿に首を傾げながらも、
拓は少し戻った場所にある横断歩道へと向かった。


横断歩道を渡りながら見えたのは、どこか嬉しそうな表情をした兄の姿と女の人の姿。





「買い食いなんてしてんじゃねーよ」


「いっいいだろっべつにっ!!だいたいなんでお前がここにいるんだっ!!」


ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる隼人に、気恥ずかしそうにむっとして叫んでいるのは


学校から帰る途中にソフトクリームを買いに来た久美子であった。








渡り終えた拓は、かなりゆっくりとした足取で二人に近づいていた。


先にある光景は拓にとっては凄く珍しいことで驚いた。


珍しいというか・・・初めてかもしれない。


家族を気にしてかどうなのかわからないが、隼人は家と外のことを結構わけているところがあった。


だから拓は隼人の家以外のことはあんまり知らない。


まあ、恋愛について家族に言う歳でもないけれど・・・。


過去に好きな人もいただろうし、あの容姿なのだから付き合ったこともあると思うけど
一度だってそんな姿も様子も見たことがなかったし、兄が見せることもなかった。


二人で出かけたことも何度かあるけど、大抵一緒の時は気をつかってくれているのか、友達と会っても
軽く話す程度で済ましていた。


けれど、あの女の人にたいしてはどうだろう。


カンが良いというか、人の気持ちを察しやすいというか。拓は、すぐに隼人の気持ちに気がついた。


意地悪そうにしながらも、かなり内心は嬉しいらしくて。


話しかけるだけでは満足できないのか、腕まで掴んで。


それを恋と言わずになんという?


明らかに。絶対にそうだ。


そしてその恋がどれだけ特別なものか。今までにないものかも、よくわかる。


目に飛び込んだら。その姿に気づいたら。


駆け出さずにはいられない存在。


共にいる時はいつも弟を気遣うことをけして忘れることのない兄が、初めてみせた行動。


たぶん自分のことを忘れたわけではないだろうけど。


気にしながらも、きっと我慢できなかったんだ。








(どうしようかな・・・)


隼人の気持ちに気がつくと、拓は困った。


いまにも足が止まりそう。


渡らないで待ってればよかったかな。


なんとなく話しかけられる雰囲気でもないし、邪魔するのも悪いし。


(こーゆうときってどうすればいいんだろ)


今までなかった状況にかなり悩んでる拓をよそに、アイスクリーム屋の前では・・・



「お前、本当に甘いもん好きだよな。・・・太るぞ?」


「ほっとけっ!!ここのソフトクリームは最高に美味しいんだから。お前も食べるか?」


「お前の一口ちょうだい」


「なにっ・・・・・・・む〜・・・一口だけなら・・・いいか・・・」


と、実に楽しそう。


隼人なんて、いまにも抱きつきそうだ。





ちょっと弟としては呆れてこないこともない。


思わず溜息をつく。


とりあえず。


馬に蹴られてなんとやら・・・だ。


なにも見なかったことにしよう。


そう決めると、拓はさっきの場所へと戻ることにした。














拓が道路を渡り終えた後。


ソフトクリームを注文した久美子が、隣の隼人に視線を向けた。


「そういえば今日はあいつらと一緒じゃないのか?」


いつもゲームセンターとかで遅くまで遊んでいるのに。


他の姿も見えないし、隼人も私服だ。


それに手にはビニール袋。


かなり珍しい。


「あ?・・・ああ・・・・・・って・・・やべっ!!」


久美子の言葉に、隼人はハッと今の自分の状況を思い出した。


慌てて道路の向こうにいる拓に目を向ける。


「お待たせいたしましたー!!」


店員さんの明るい声が響き、ソフトクリームを受け取った久美子は・・・。


「−−−−えっ?!おっおいっちょっ・・・」


突然腕を引っ張られた。


久美子の腕を掴んだまま駆け出そうとした隼人は一瞬立ち止まり、落としそうになったソフトクリームに
気を取られてる久美子と待っている拓を交互に見やった後。


久美子の腕を掴んだまま、拓の方へと歩き出した。


拓をいつまでも待たしておくわけにもいかない。


だけど久美子の腕も離せない。


どっちも譲れないのだから。


隼人は拓の元へと久美子を連れていくことにした。






1終  2 へ


あとがき


久々の更新でまた続いてます・・・。すみません・・・。

書くたびに思っていたことなのですが、うちの拓君ってちょっと幼い感じが・・・。

設定上は中学生か、もしかしたら高校生ですよね。

自覚はあるのですが、すでにキャラが私の中で好き勝手に出来ちゃってるので、
拓君は恐らくずっとこんな感じかと思います。

というか、もうお気に入りなのでこのまま通しまくるだろうな。

某小説「恋するOO」を書いた時から、拓君は外せない存在になってるので。


父博史が言っていた面倒見がいい隼人っていうのがどんな感じかと考えた結果
こんな兄になりました・・・が、どうなんでしょうかね。

私は兄二人いますが、妹と弟じゃ全然違うだろうし・・・。弟の立場がよくわからん・・・。

って、あとがきが長いよ・・・。